デジタル
2019/6/7 7:00

【西田宗千佳連載】実験と先進はPC、マスはQuestで攻めるOculus

Oculusは現在、3つのVRデバイスを製品化している。低価格でシンプルな「Go」、PCとともに使うハイエンドの「Rift S」、そして、PCよりも広い市場を狙う「Quest」だ。特にQuestは、ゲーム機的なビジネスを強く指向した製品といえる。販売するゲームも、家庭用ゲーム機と同じように、プラットフォーマーであるOculus側で事前に企画書などの審査を行い、「品質的にも市場価値的にも販売する意味がある」と同社が判断したものだけを扱う。

↑Oculus Quest

 

なぜ3つもVRデバイスを扱うのか? そこにはもちろん、明確な戦略が存在する。ポイントは、Rift SとQuestでは「クロスバイ」「クロスプレイ」に対応したゲームがある、ということだ。

 

クロスバイとは、Rift S用、もしくはQuest用のゲームを買うと、もう一方のプラットフォームでも同じゲームが楽しめる、というサービス。クロスプレイは、それぞれ別のプラットフォームであっても、ネット対戦などは相互に行える機能を指す。機器を買い換えたり、買い足したりした場合でも、ゲームの買い足しは不要だ。

 

なぜクロスバイが用意されているのか? それは、Rift Sのような「PC向けゲーム」の世界と、Questのような「マス向けゲーム」の市場は、微妙にユーザー層が異なるからだ。

 

PCゲームの市場、特にVRを含むハイエンドゲームの市場は、非常に熱意があって積極的なユーザーに支えられている。そのため、実験的なゲームやアプリを試す人も多い。新しい技術やトレンドはそうしたなかから生まれ、業界全体が進化していく源にもなっている。

 

一方で、ゲーム機などの市場は、もう少し保守的だ。よくわからないゲームでも買うのは少数派で、定評が定まったもの、いかにも面白そうなものがヒットする。

 

そう考えると、OculusにとってRift Sは「市場の先端を切り開く存在」であり、Questは「一番大きな市場を確保する」ための存在である、と考えることができる。そう考えれば、両者で同じゲームをスムーズにプレイできる環境を整えるのも理解できる。PCでゲームが発見され、そこからの評判に基づいてQuestでブレイク、という流れを想定しているのだ。

 

もちろん、十数万円のハイエンドPCとともに使うことを想定したRift Sと、2017年のハイエンドスマートフォンクラスのプロセッサーを使っているQuestとでは、表示できるグラフィックスの質や処理能力に大きな差がある。そのため、両方でビジネスを考えているデベロッパーは、Quest向けのパフォーマンス最適化で苦労しているようだ。だが、ソフトが売れる本数で考えると、最終的に「Questに対応したか否か」で大きな差が生まれる可能性は高い。

 

一方、家庭用ゲーム機的な戦略を採るQuestが、Oculusの思惑どおりに、家庭用ゲーム機と同じようにヒットするかは楽観視できない部分がある。

 

そもそも、VRはまだ市場開拓期だ。ゲーム機でいえばファミコンの前、といってもいいかも知れない。Questは「VRにおけるファミコン」の地位を狙っているのだろうが、その手前で着地する可能性も高い。だとすると、ラインナップを絞るより、まだPCのように「色々なものが出てくる可能性」に賭けた方がいい、という判断もあるだろう。非常に微妙な線だ。すべてのゲームがRift SとQuestの両方に対応しているわけではなく、そのあたりも、デベロッパーの戸惑いを表していそうだ。

 

一方、筆者は「これこそQuestがヒットする場所」という市場に心当たりがある。

 

それはどこか? その辺は次回のVol.79-4で解説する。

 

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