自分の主張をバズらせるにはどうしたらいいのか。その秘訣を歴史的なインフルエンサーに学ぶ。
総SNS時代において
こんなタイトルの記事を開いたのだから、あなたは「バズりたい」と思っているのだろう。少なくとも興味があるのは間違いないはずだ。実際のところバズは魅力的である。一般人が短期間に自分の意見を広めることができるのだから。おまけに注目が集まることで、何かを宣伝することもできる。
現代はバズることが今までに無いほど簡単になった時代だ。実際、日頃ネットを見ていると、多くのバズを確認することができる。こうなると「自分もバズりたい」と考え始めるのは、自然な流れだろう。
ところが多くの人はバズることが無いまま今に至る。当然だ。バズには技術が必要なのだから。本気でバズりたいのであれば、それを学ぶ必要がある。
歴史的にバズった人
どうしたら自分の主張がバズり、それを有効活用することができるのか。今回はツィターを得意とし、歴史的にバズった人を召喚する。
【画像:マルティン・ルターの肖像※参考:ウィキメディア・コモンズ】
宗教改革の中心人物、マルティン・ルターである。
ルターのバズは教科書にも載るほどの規模である。彼が1517年10月31日に発表した、贖宥状を批判した文章『95カ条の提題』は、わずか2週間でヨーロッパ中に広まったと言われている。
元はラテン語で書いてあったが、間もなくドイツ語に訳され、続いて他の言語にも訳された。そして後に、当時の最高権力であったカトリック教会への抵抗運動を生み出すきっかけと言われるようになったのである。
【画像:95カ条の提題を貼り出すルター※参考:ウィキメディア・コモンズ】
ところが肝心のルター自身は、こうなることを想定していなかった。
彼は1518年3月5日付の書簡で「広く読まれることになるとは思わなかった」「公にしたことを後悔している」「こんなことになると分かっていたら、もっと正確に書いたし、余計なことを書かなかった」と述べている。
なぜこうなってしまったのか。
最も挙げられる要因の1つは活版印刷の存在である。ルターの時代より半世紀前に登場した活版印刷は、当時普及しつつあった。これによって文書の複製が容易となったので、『提題』は広まったというのである。
【画像:活版印刷※参考:ウィキメディア・コモンズ】
しかしこれは「SNSの普及によってバズりやすくなった」と言うのと変わらない。我々が知りたいのは「なぜルターが」という一点に尽きるのだ。
そこでルターの行動の何がバズを引き起こしたのかを読み解き、バズるための技術を導き出していく。
構築されたネットワーク
バズとは情報の爆発的な伝達と言える。つまり情報を伝えるためのネットワークが必要だ。
コロンビア大学教授でヤフー・リサーチ主任研究員のダンカン・ワッツは、著書『偶然の科学』において、バズのような社会的伝染を森林火災に例えた。
炎が燃え広がるためには、気象条件や可燃物が必要であるのと同じように、社会的伝染も影響のネットワークが適切な条件を満たしている必要がある、と。つまりバズにおいては可燃物の役割を果たす、影響を受けやすい人々が存在していることが重要なのだ。
では、ルターにとっての可燃物は、いったいどのような人々だったのだろうか。これについては専門家たちの間でもまだ議論が続いている。主要な説を3つ挙げよう。
- 都市に住む知的な読書階級
- 自治権の拡大を目指している農村共同体
- ルターをメシアとして神格化する一般庶民
どの説も一長一短あるが、1つ言えるのはルターの影響を伝える経路は複数あったということだ。これはルターの努力の賜物である。
【画像:説教をするルター※参考:ウィキメディア・コモンズ】
当時ルターはヴィッテンベルク大学で聖書教授の任に付いていた。ここで彼はドイツだけでなく北欧諸国から集まった学生たちに、自らの聖書理解を教え広めていたのである。
教え子達はルターの尖兵として機能したに違いない。実際、ラテン語で書かれた『提題』をドイツ語に翻訳したのは、ここの学生だったとも言われている。
一方でルターは自ら民衆の中に入り、聖書の内容をドイツ語で話し聞かせていた。当時は大学の講義や書物も、少数の知的階級しか理解できないラテン語が使われていた。ルターは学生だけでなく、一般庶民にも聖書の教えを広めようと活動していたのである。
こうしてヴィッテンベルクという人口2000人程度の小さな町は、ルターの教えが深く浸透した状態にあった。もはやルターの火薬工場である。
そんな場所でルターは何度も火種を撒く。
粘り強く執拗に
バズることを目指すのならば、持続する意思を持たなくてはいけない。
バズというものはランダム性が強い。ちょっとしたことが大きくバズることもあれば、いかにも受けそうなネタが不発に終わることもある。ルターの『提題』がバズったのもタイミングが良かっただけなのかもしれない。
しかし、マルティン・ルターという人物がバズを起こしたのは必然に近いと俺は考える。別に「神の導き」とやらを信じているわけではない。俺が信じるのは試行回数を増やす効果だ。
先にも述べたように、ルターは大学で聖書について教えていた。教えには「人間の罪について」や「罪からの救いとしての『恵みの義』について」などがある。贖宥状を批判した『提題』に繋がる内容だ。
しかも講義の際にルターは、活版印刷を用いてレジュメを配布している。いつこれが流出してもおかしくない。
【画像:ルターの講義ノート※参考:ウィキメディア・コモンズ】
それどころか『提題』がバズっても神学者クラスタからの反応が鈍いことに立腹したルターは、その主張をドイツ語で分かりやすくまとめ直した『贖宥と恩恵についての説教』を刊行している。
贖宥状を売るような相手を「聖書の匂いを嗅いだことも無い」とか「鈍い頭脳の持ち主」と煽り立てる内容だった。
バズから炎上へと移り変わり、カトリック教会から垢バンもとい破門された後も、ルターの勢いは止まるどころか増すばかり。聖書のドイツ語訳を始め、書籍を出版し続けた結果、一時期のドイツの出版物の約半数がルター著作だったという。
さらに民衆に対しては本よりも音楽の方が有効だと考えたルターは、自ら作詞作曲を行い、民衆のための聖歌である「賛美歌」を考案するに至った。
言ってしまえばTwitterやブログだけに飽き足らず、YouTuberデビューしたようなものである。ルターには執筆だけでなく、音楽の才能もあった。
【画像:ツィターを演奏するルター※参考:ウィキメディア・コモンズ】
ちなみにこの絵でルターが演奏している楽器がツィター (Zither)である。
一般的に「ツィター」というと、琴のように置いて使う弦楽器のことを指すが、いくつかの地域ではシターン (Cittern) に属する楽器のことを意味する。当然のことながらTwitterとは関係ない。
ともあれ、ルターは自らの主張を事あるごとに広めようとした。広まったらそれで満足するのではなく、むしろ倍プッシュすることを努めた。先の森林火災の例で言えば、ルターは火種を撒き続けたのである。だからこそバズというランダム性の強い現象を起こすことができたのだと言える。
まとめ
『95カ条の提題』がバズった要因について述べてきた。ルターは教育によって周囲の人々を可燃物に変え、火種を撒き散らした。そして時代の空気と結びつき、歴史的な炎上へと繋がったのである。
我々はここから何を学び取ればいいのか。それは主張を発信し続けるということである。ただ闇雲に繰り返せばいいというものではない。相手に合わせて表現を工夫し、伝わるように努力する必要がある。
これは簡単なことではない。それでも自分の主張が本当にバズるべきものだと信じられるのなら、やり遂げられるはずだ。最後に物を言うのは「熱意」である。
【筆者プロフィール】
骨しゃぶり
週末ブロガー。本と何かを結びつけるようなブログを書いている。くっつくのは深夜アニメが多い。
本しゃぶり
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