話題の「5G」をゼロから知っていく本連載。今回は、「ビームフォーミング」という技術について解説します。第7回で解説した「Massive MIMO」と共に、5G通信を支える重要な技術です。
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簡潔に言うと、ビームフォーミングとは、ある場所にピンポイントで電波を届ける技術のこと。電波といえば、アンテナを中心に円形に広がっていく様子を思い浮かべる人が多いと思いますが、このビームフォーミングはズバッと一直線に届くイメージです。
でもどのようにしてピンポイントで電波を届けるのでしょうか。まずは、電波が持つある性質から見ていきましょう。
秘密は「波」の性質にあり
まず、電波とは字の通り「波」です。波形のうねりを考えてもらうとわかりやすいのですが、波には高くなる山の部分と、深くなる谷の部分がありますよね。この山や谷のことを「位相」と呼びます。
実は、同じ位相の波をかけ合わせると波どうしが強め合う(=山と谷が大きくなる)、という性質があります。反対に、逆の位相を持つ波をかけ合わせれば、互いに打ち消すことができます。山(プラス1)と谷(マイナス1)を足すとゼロになるイメージです。
もちろん、これは電波にも当てはまります。同位相の電波をかけ合わせれば、電波を強められますが、逆位相だと弱まってしまいます。複数のアンテナから電波を送信すると、電波どうしで強まったり打ち消し合ったりしているため、電波を強く受信できる場所もあれば、受信できない場所も出てくるのです。
ちなみに、最近のヘッドホンやワイヤレスイヤホンに搭載されている「ノイズキャンセリング」機能も原理は同じ。周囲の音と逆位相の音波を作り出すことで、騒音や環境音を小さくしています。
位相をコントロールする
これらの性質を利用しているのが、ビームフォーミングです。複数の電波を出力する際に、電波の電力や位相を意図的に調整することで、ある地点でのみ最適な電波感度になるようコントロールしています。
ビームフォーミングのメリットは、さらに遠い場所に電波を届けられること。位相を調整して電波強度を高められるため、電波が減衰しやすい高周波数帯、とりわけミリ波帯に有効であると考えられています。また、一定方向に送信されるので、周囲に別の基地局があっても電波どうしの干渉を避けられます。