Vol.85-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「巻き取り式ディスプレイ」。先日、有機ELの本領発揮ともいうべき同機構をシャープが実現した。
シャープやLGがテレビのような大型ディスプレイで「巻き取り式」をアピールする主な理由としては、液晶ディスプレイとの差別化という目的が挙げられる。
現在の液晶ディスプレイは、簡単に言うと4つのパーツで成り立っている。光を出す「バックライト」、光が出るか出ないかを決める「液晶」、液晶を通って来た光に色をつける「カラーフィルター」、そして、液晶のオンオフをコントロールする「TFT層」だ。薄く見える液晶であっても、これらを積み重ねて作るため、「ゆるやかに曲げる」ことはできるが「大きく曲げる」ことは難しい。
これに対して、有機ELを構成するパーツは「有機EL発光体」と「TFT層」くらいしかない。表面カバーは必要だが、それは液晶も同じ。バックライト層がないぶんだけ構造がシンプルであり、全体を樹脂で作ることで、曲げやすくなる。
有機ELは構造によっても曲げやすさが異なるので、「有機ELディスプレイなら簡単に曲げられる」というわけではない。しかし、液晶に比べれば曲げるのはずっと容易であり、技術的課題も小さい。
有機ELは、液晶よりも画質が良い、と言われている。しかし実際のところ、それは「こだわりがある人ならわかる」世界の話であり、多くの人は液晶で満足できるレベルだ。しかも液晶は、生産量が多く、生産する企業も多いので、コスト競争の面では有機ELよりずっと有利な状況にある。
有機ELがコストで液晶に追いつくには、まだまだ時間がかかる。そのなかで「有機ELでなくてはいけない理由」を打ち出すには、液晶にはできないことを強くアピールするしかない。もちろん、画質はそのひとつなのだが、よりわかりやすく、多くの人に可能性をアピールできるのが「曲げられるディスプレイ」なのである。結果、スマートフォンでは、その特性を使って「二つ折り」の製品が登場しはじめているし、テレビにおいては「丸める」ことで片付けやすくした製品が登場しようとしている。
ただし、使っている有機EL技術により、特性はけっこう異なることも知っておきたい。
LGのものは、有機ELとはいうが、白く発光するものにカラーフィルターをかぶせる方式。そのため若干構造が複雑になりやすい。シャープが作ったものは、それぞれの画素が「赤」「緑」「青」の光の三原色で発光するため、カラーフィルターがいらない。そのため、ディスプレイ部の薄さは0.5mmしかなく、裏からちゃんと保持しないと、下の部分がヒラヒラと動いてしまうほどだ。LGの有機ELも、裏側ではフレームを添えて強化しているくらい「ペラペラ」なのだけれど、ポスターのように揺れ動いてしまうシャープ製のものほどではない。
テレビは一時「薄型」を競っていたが、結局設置するためにはそれなりの厚さが必要で、現在では1mm単位での薄型化競争はしなくなっている。しかし、これだけペラペラなディスプレイができるとなると、また話は別になってくる。
では、ペラペラなほど薄いディスプレイの存在は、テレビにどんな影響を与えるのだろうか? そのあたりは次回のウェブ版で解説する。
週刊GetNavi、バックナンバーはこちら!