Vol.85-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「巻き取り式ディスプレイ」。先日、有機ELの本領発揮ともいうべき同機構をシャープが実現した。
薄型で巻き取れて、質量も軽いディスプレイを使ってテレビが作れるようになると、壁掛という設置方法が大幅に身近なものになる。
壁掛にしやすいということは、部屋をそれだけ広く使えるということである。テレビを見ないときは丸めて片付けられるかもしれない。テレビは購入後、消費者宅への搬入が大変なのだが、軽くなるのでそれも簡単になる。特に大型製品については、エレベーターなどを使って搬入するのがとにかく手間だったのだが、丸められるディスプレイになれば、エレベーターに乗せるのも軽々だ。70V型のテレビを設置するには通常3人がかりなのだが、将来は1人で設置可能になるかもしれない。
このことは、テレビをより大型化させるきっかけになる可能性がある。日本では60V型以上のテレビがマスになるのは難しいとみられているのだが、軽くて部屋に設置しやすくなれば話は別だ。
ここで大きな意味を持ってくるのが「8K」だ。
NHKは8Kを推進している。だがそこには、「8Kの解像度を生かす巨大なテレビをどうやって家に置くのか」という問題が横たわっている。8Kを生かすには、70V型以上の大型テレビであるのが望ましい。画面の縦の長さを1.5倍した距離(1.5H)で見るのがベストとされているので、小さいサイズだと本当に近くで見ることになってしまうからだ。しかし、70V型・80V型のテレビは大きすぎて輸送も搬入も困難。日本家庭全体に普及する、と想像するのは現状では難しい。
だが、ここで発想を変えよう。
重さと軽さの問題が解決し、日本家庭にも超大型テレビが入る時代が来れば、8Kは十分「マスのもの」になり得る。
実はシャープの巻き取り式有機ELディスプレイは、NHKとの共同開発だ。NHKの技術開発部門であるNHK技研は、8K時代にはシート型テレビが必要であると考え、ずっと有機ELを使ったテレビの開発を進めてきた。今回の試作品は、その成果でもある。
もちろん、こうした製品が世に出るのは、まだまだ先の話だ。発売になったとしても初期には高価で、誰もが買えるもの、というわけにはいかないだろう。また、画質の面でも、丸められるものとそうでないものとでは違いが出る可能性が高い。
しかし、その日は10年以内のいつか、必ずやってくるだろう。そうなると、2000年に本格的に始まった「フラットパネルによる薄型テレビ」というトレンド以来、久々の大きな変化となる。ブラウン管・フラットパネルに続く第三の波だ。
その日が来たら、テレビの姿や形、製品性は、いま以上に大きな変化を遂げることになる。そこで、日本メーカーが再びイニシアチブをとる時代が来たら、きっと面白くなるはずだ。
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