デジタル
2020/1/7 7:00

【西田宗千佳連載】「高付加価値型市場」に残った結果、一人勝ちになったiPad

Vol.86-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「タブレット市場」。iPadのニューモデル投入で、その優勢は決定的に。今後、各陣営はどう動くのか?

 

現在のタブレット市場、特にハイエンド製品については、アップルのiPadが一人勝ちという状況が続いている。株式会社MM総研が2019年11月に公開した「2019年度上半期の日本国内タブレット市場」の調査データによれば、アップルはタブレット市場のシェア51.7%を確保し、圧倒的なトップを維持している。シェア2位(ファーウェイ)からシェア5位(マイクロソフト)までを合わせても40%に満たない状況であり、他社との差は圧倒的に開いている。

 

こうなっている理由は2つある。ひとつには、大手携帯電話事業者もiPadを積極的に販売しており、その販路での販売数量が多いことが挙げられる。なお、アップル社以外の製品の携帯電話事業者経由の販売数量は少ない。そしてもうひとつの理由としては、タブレットの販売数量がじわじわと減っていたなかでも、継続してiPadは製品を出し続けてきたという事実がある。

 

iPadは2015年に「iPad Pro」を発表して以来、一貫して高性能路線・高機能路線を進んでいる。2019年になり、第5世代iPad miniや第7世代iPadといった低価格製品も投入したが、これらにしても、Apple PencilやSmart Keyboardといった周辺機器と連携して使うことを想定している。コストパフォーマンスは圧倒的だが、他社のAndroidタブレットのように「低価格で割り切った製品」は作っていない。

 

この理由は明確だ。アップルは低価格な製品を作りたくないのである。

 

Apple iPad
ディスプレイが10.2型に大型化し、Smart Keyboard にも新対応した第7世代。よりPC的な作業が可能に なったiPadOSを搭載しており、精密なペン入力が可 能なApple Pencilもサポート。ストレージ容量別に、 32GBモデルと128GBがラインナップされている。

 

低価格な製品を作るということは、差別化が難しくなるということである。例え、「タブレットはコンテンツを見るものだから、性能は高くなくていいし長く使いたい」と思われていたとしても、アップルとしては、ただでさえ買い換えサイクルが長くなっているタブレットを安売りの道具にして利益率を落とす事態を忌避した。なにより、単なる安さだけならiPadはAndroidタブレットにかなわないし、アップルのブランドを維持する目的からも、単純に価格を下げるわけにはいかない。

 

数年前までは、そのことがタブレット市場全体のブレーキを踏む原因となってしまっていた。だが、アップルは持続的にそうしたやり方を貫いたため、結果的に「PCに近い道具として使うタブレットの市場」は、iPadに席巻されることになった。市場の多様化という意味ではプラスとは言い難いのだが、タブレット市場が落ち込むなかで一社だけ地道に取り組んだことが、現在のシェアを形成している。

 

しかも大きかったのは、iOS(現在、iPad向けのものはiPadOSに名称変更しているが)向け有料アプリの市場が、Androidよりも健全に成長したことだ。どのデベロッパーに聞いても、「有料の、しかもゲームでないアプリについては、AndroidとiOSでは売れ行きに明確な差がある」というコメントが聞かれる。アドビもPhotoshopなどのiPad対応を進めた理由について「そこに市場があるから」とコメントしている。さらに、Androidを軸にした他のプラットフォーム向けの市場も存在するが、「数量を考えても優先度はiPad」としている。アプリ市場の構築も含め、アップルがブラインド維持のために数年間やってきたことが、結果的にいまになってプラスに働いている、といっても過言ではない。

 

では今後、この状況はどうなるのか? そこは次回のウェブ版にて解説する。

 

 

 

 

 

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