デジタル
2020/1/30 7:00

【西田宗千佳連載】ゲーミングPCに引きずられ「ハイエンドPC」の価値が向上する

Vol.87-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「ハイエンドPC」。ゲーミングPCが人気を集めることで、PC市場全体に生じつつある変化とは?

 

 

高性能なPCを求める声がジワジワと増加中

最近、PCメーカー関係者と話していると、「PCがハイエンド化しつつある」のに気付く。いや、もちろん、低価格なPCも販売されているし、そこが主要な市場であることは間違いない。マスが低価格なPCにあり、そこで販売数量を稼いでいるという状況は、ここ20年近く変わらぬPC市場の現状である。

 

一方、高価で性能の高いPCの売れ行きが昨今、回復基調にあり、各社が「高付加価値型のPC」を開発しやすくなっているというのも事実だ。

 

起爆剤になったのは「ゲーミングPC」だ。ご存じのとおり、本格的なゲームプレイには、高性能なCPUとGPUが必要となる。ストレージも高速なSSDを、あればあるだけ欲しい。メモリだって同様だ。重装備にならざるを得ないので軽量な製品にはならないし、価格も高価になるが、ゲーミングPCであれば家庭用ゲーム機を超えるグラフィックでゲームができるし、「実況動画」を作るのもより簡単だ。いわゆる「eスポーツ」向けとして高性能なPCが求められることもあり、それがハイエンドPCの復権に拍車をかけた。実際、PC市場のなかで堅調に伸びているのはゲーミングPCのみ、といってもいい。

 

一方で、ゲーミングPCによって「ハイパフォーマンスなPCが手軽に手に入る」状態が出来上がったことは、PC市場全体にも見過ごせない影響をもたらしていく。

 

PC用ゲームが増えると、「ゲーム用GPUが載っていないPCでももっと3D性能がほしい」という声が増えてくる。また、「ゲーミングPCであれば性能が高いので、写真や動画にも有利」という点から、従来ゲーミングPCに見向きもしなかった層からも、PCの性能アップを求める声が上がり始めている。

 

NEC LAVIE VEGA LV750/RA

アップルは、MacBookProの16インチモデルを、過去の15インチモデルと比べても大幅に性能アップさせた。「ゲーミングPCのあるWinodowsに対し、MacBookProは性能が低い」という声に対応する動きだ。

 

インテルもまた、「Ice Lake」と呼ばれる第10世代Core iシリーズの上位モデル向けGPU「Iris Pro Graphics」の性能を向上させた。ゲーミングPC向けGPUほどの性能はないが、軽いゲームなら十分プレイできる。AMDの「Ryzen Mobile」を採用するノートPCも増えたが、この理由は、インテル製CPUの供給量不足に加え、「より高いGPU性能」を求める声に応えたものだ。

 

またディスプレイパネルの供給状況も変わった。ハイエンドゲーミングPC向けに「4K+HDR」対応の有機ELパネルの供給が増えたことで、ハイエンドPCでは有機ELを使う流れが見え始めている。NECパーソナルコンピュータがCESで公開したハイエンドノートPC「LAVIE VEGA」は、ゲーミングPCではないものの、それに迫るほど高性能であり、ディスプレイには有機ELを採用する、「MacBookPro対抗機」になっている。

 

こうした「高性能PCの復権」は、いまのPC市場を特徴づけるひとつの形だ。では、ゲーミングPC市場が伸びたのはなぜか? そして、今後どうなるのか? ウェブ版で解説しよう。

 

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