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2020/2/4 17:30

知る人ぞ知るソニーの本気カメラ機能「Cinema Pro」ーー新機種の期待が高まってきたので改めてレビュー

最新スマートフォンのカメラはマルチレンズを搭載して高機能化がますます進んでいます。でも、皆さんはいまスマホで思い通りに楽しく写真や動画を撮れていますか?ソニーモバイルのXperia最新モデルが搭載する「Cinema Pro」は、スマホのカメラトレンドに一石を投じるユニークな機能。スマホカメラの可能性をどのように広げてくれるのか、これからレポートしたいと思います。

 

↑Xperiaシリーズのハイエンドモデル「Xperia 5」に搭載されている「Cinema Pro」アプリを検証してみたいと思います

 

↑3眼レンズユニットを搭載。16mm(広角)/26mm(標準)/52mm(望遠)というレンズ構成

 

映画作りのプロが関わってできたアプリ「シネマプロ」

2019年夏発売のフラグシップモデル「Xperia 1」から搭載された、スマホのカメラでシネマライクな動画撮影ができるプレミアム機能です。映画製作の第一線で活躍するソニーの35mmフィルムカメラ「CineAlta」シリーズのフラグシップモデル「VENICE(ヴェニス)」をベンチマークとして、動画撮影の画づくりやユーザーインターフェースの作り込みが行われています。現在は上位機種のXperia 1とXperia 5、そして直販モデルであるXperia 1 Professional Editionの3機種だけに、カメラアプリと別に切り分けられた「シネマプロ」アプリをプリインストールする形で提供しています。

 

ソニーモバイルがこの機能を載せたそもそもの意図は、まず1つに「映画製作に関わるプロフェッショナルもスマホで動画を撮ろうよ」というものでしょう。しかし、その提案以外にも意図があると筆者は考えています。近年、スマホカメラが目で見る情景に対して、解像感や色を正確に反映する方向へと進化しつつあるのに対して、Xperiaは高性能なフィルター機能をベースにして、スマホのカメラで写真や動画を撮るユーザーの「クリエイティビティ」を刺激することを狙っているのではないでしょうか。

 

つまり、誰でも簡単に、映画の監督や撮影監督になったような気分でクリエイティブ、かつアーティスティックな動画がXperiaを使って撮れることがCinema Proの大きな魅力なのです。

 

↑Cinema ProはXperia 1/5/1 Professional Editionの3機種にプリインストールされています

 

シネマカメラのようなアプリのユーザーインターフェース

筆者も今回、Xperia 5を使ってCinema Proを体験してみました。アプリを起動するとフィルムカメラのファインダーをのぞき込んでいるようなユーザーインターフェースが起動します。

 

↑シネマカメラのような細かな設定が配置されたユーザーインターフェース

 

Cinema Proでは4K、または2KのHDR動画が撮影できます。また、色鮮やかな夕焼け空を見たままに撮れる豊かなグラデーション再現が可能な10bit記録にも対応。動画1秒あたりの静止画コマ数は映画業界の標準的なフレームレートである24fps(フレーム/秒)のほか、なめらかでビデオライクな動画に仕上がる30fpsから選択できます。

 

映画館のワイドスクリーンと同じ、画角比率21対9の動画記録にも対応。同時に「Grab」をタップすると、現在フレームに表示されている画像を21対9の比率で静止画としてキャプチャもできます。

 

Xperia 1とXperia 5はともに3基のマルチレンズカメラを搭載しており、それぞれに使用するレンズを撮影前に選択する仕様です。ISO感度(明るさ感度)やシャッタースピード、ホワイトバランス、フォーカス合わせをマニュアルとオートのどちらにするかなどが、細かく追い込めるところもプロフェッショナルライクです。

 

↑レンズを撮影前に選択します

 

↑ホワイトバランスを選択。昼間にタングステンライトを選ぶと意図的に青みをかけたような映像が撮れます

 

↑意図的にフォーカスをぼかした画からピントを合わせる際、スライダーを手で操作すると不自然なズーミングになってしまいますが、A/B地点のフォーカスを事前に合わせてフォーカスオートで移動させる機能があります

 

「Look」を使いこなせば映画みたいな雰囲気が出せる

そしてCinema Proには「Look(ルックアップテーブル)」という色あい/明るさのプリセットが用意されています。好みのLookを選んで、映画のような雰囲気のある画づくりが簡単にできます。

 

↑9種類のLookが選択可能

 

用意されているLookは全部で9種類。デジタルシネマカメラ「VENICE」の標準仕様である「VENICE CS」は、シネマの色再現を意識して作られた「S709」という、画像階調を示すガンマカーブをベースに作られています。見た目に忠実で自然な色合いが特徴です。ほかのLookはいわゆるカメラのレンズにフィルターを装着した状態に近く、特定の色やコントラスト感を強調した面白みのあるバランスになります。

 

↑LookをCool/Blue 60に設定。サスペンス映画風の動画に最適です

 

↑ソフトなモノクローム調のLookもあります

 

レトロスペクティブな「Warm/Yellow80」や、ブルーエンハンサーフィルターをかけたような仕上がりになる「Bright/Blue20Yellow60」は冬の青空がきれいに撮れます。そして8mmフイルムで撮影した実験映画みたいな「Strong/Blue100」などが筆者の好みにマッチしました。

 

↑VENICEの標準仕様に合わせたナチュラルな画作りの「VENICE CS」

 

↑レトロな色合いになる「Warm/Yellow80」

 

↑冬の晴天がきれいに撮れる「Bright/Blue20Yellow60」

 

↑昭和の実験映画みたいな「Strong/Blue100」

 

Lookは使い慣れてくると、自然にそれぞれのLookが最もマッチする風景や被写体がわかるようになってくると思います。言い換えれば、ユーザーのクリエイティビティが刺激されて、撮りたいシーンを「あ、この場面はBlue向き!」といった具合にふと意識するようになると思います。

 

撮った動画を手軽に編集、ファイルに書き出せる

Cinema Proでは撮影した映像クリップをグループ単位で「Project」としてまとめてアプリの中で管理します。はじめに新規プロジェクトを作成して、その中に次々とクリップを作成していくようなイメージです。Lookはプロジェクト単位で固定になりますが、ISO感度やホワイトバランス、レンズの選択などはクリップ単位で変更できます。

 

クリップを撮りためたら、最終的にプロジェクト単位でCinema Proアプリからファイルを書き出すとアルバムアプリに保存されます。このファイルをXperiaの4K/HDR対応の高画質有機ELディスプレイで再生したり、USBストレージに保存、またはXperiaからWi-Fi経由でリビングの4Kテレビにキャストして大画面で見ながら楽しむのも良いでしょう。

 

↑撮りためたプロジェクトがずらり

 

↑プロジェクトの中に保存したクリップをつないで作品として書き出せます

 

つまり、Cinema Proアプリをマスターすれば、映画のような4K/HDR動画を「撮る」「作る(編集する)」「見る」という一連のワークフローがスマホだけでできてしまうことになります。

 

一般層のクリエイティビティにも響く機能性! しかしUIは…

実際に使ってみると、Xperiaの標準的なカメラアプリが、他社製スマホと同じく被写体の「ありのままを正確に、美しく撮る」ことを目的としているのに対して、Cinema Proは「ユーザーのクリエイティビティをカタチにする」ためのアプリであるところが大きな違いであることがわかります。

 

言い換えれば、Cinema Proはスマホに内蔵されているカメラを使う機能でありながら、標準的なカメラと用途が異なる「新しい撮影ツール」です。おそらく本格的な映像製作に関わるプロフェッショナルにとって、Cinema Proはムービーカメラや高度な動画撮影機能を持つミラーレス一眼ともまたひと味違うクリエイションに挑戦できる、新しい撮影ツールになりそうです。

 

また、これまで解説してきたように、ユーザーはとりあえずCinema Proを立ち上げれば本格的な画が作れるという簡便さを持っていることもわかりました。動画撮影に詳しくない人でも、短めのクリップを撮りためて、作品にしてみるところから始めると楽しさを実感できると思います。

しかし一方で、ムービーカメラについてある程度の知識がある人でないと、理解しづらくとっつきにくいところもあると感じました。例えばカメラアプリでは利用できる「ズーム機能」が、Cinema Proの場合はシネマトグラファーの撮影流儀に従って、クリップ単位で撮影を始める前にレンズを固定して撮影するスタイルになっています。Lookの名称も一般には少しわかりにくく直感的には選びづらいと思いました。

 

「簡単にきれいな動画が撮影できる」ことをウリにする現在のスマホカメラのトレンドからは少し距離を感じてしまいますし、もしCinema Proを一般に広く普及させるための、Xperiaの看板機能に育てていくのだとすれば、ユーザーインターフェースの仕様はより直感的であってほしいです。

 

気づけばXperia 1の発表から1年が過ぎました。そろそろ新機種の登場とともに、インターフェイス改善をともなったCinema Proのバージョンアップを期待したいところです。

 

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