デジタル
2020/3/31 7:00

【西田宗千佳連載】発表会が「無観客イベント」化する理由

Vol.89-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「新型コロナウイルス流行の影響」。イベントの中止だけでなく、今後の動きにも大きな余波が生じて……。

 

新型コロナウイルスの影響により、多くの人が集まるイベントなどは自粛する流れになった。いわゆる「記者会見」や「発表会」の類いはまさに「イベント」なので、大勢が集まる形では開催できない。

 

実際、国際的に大きな発表会・展示会は続々と中止になっている。イベントを自粛せねばならないという主催者側の事情だけでなく、出席者側も海外渡航自体を自粛する流れになっているので、現状は国際的なイベントそのものが開けないのだ。すでに夏までの国際的な発表会・展示会はほぼすべて中止されたといえる。筆者個人も、例年ならほぼ毎月どこか海外に取材に出ていたが、今のところ秋までは国外に出る予定がなくなった。

 

こうした状況は、国内でも同様だ。特にこの春は、携帯電話事業者が大きな発表会を予定していたタイミングで、本来は「会見だらけ」のはずだった。だが実際には、どれもリアルイベントとしては開催されず、オンラインでの配信に切り替えられている。

 

オンラインの動画配信を使った発表自体は、別に今に始まったことではない。任天堂は2013年以降、自社の製品のほとんどを「オンラインでお披露目」している。プレス向けの発表会が動画配信されることもある程度日常的に行われていたので、おそらく多くの読者の皆さんは、そこまで変わったことが起きていると感じていないかもしれない。

 

「そういえばこれ、プレスが入ってないから無観客試合みたいな、妙な感じになっている」

 

その程度の違和感しかないのではないだろうか。だが、企業側とメディア側にとっては大きな変化が生じているのだ。

 

本当は、ステージイベントを「無観客」でネット配信する必然性はない。配信しかしないなら、テレビ番組のように最初から作り込むべきであり、ステージを中継する意味がない。なのに「無観客発表」になっている理由は、ステージイベントのシナリオと演出を「配信動画」に作り替えるのが大変だからだ。準備には数か月かかる場合も多く、コストもかかっているし、ゲストを用意する場合もある。それらをぜんぶ「バラし」にして作り直すのはリスクがある。ある携帯電話事業者の広報担当者は「本当はステージイベントでないほうがいいのはわかっているけれど、現実的にはどうしようもない」と話す。

 

海外系で余力のある企業は、社内に用意している動画配信用のスタジオから、番組として作り込んだ形で説明会を行うことがある。いまのところ「記者向け」が多く、一般公開されないものも多いので、具体的な企業名を挙げるのはご容赦願いたいが、アメリカのテック大手は、やはり「動画」の使い方もこなれている。

 

一方、すべてをオンライン化するのもまた難しい。例えば携帯電話などは、実物を触らないと伝わらないことも多い。だから現状では、「無制限に多くの記者を呼ぶ」イベントは自粛したうえで、オンライン発表会を行ったあとに、業界関連記者だけを集め、10人単位の少ないグループに分けて実機を体験させる機会を設けるやり方が主流となりつつある。その場合も、記者同士が一定の距離を保って取材できるよう、席を開けたり会場を広めにしたうえで一度に入れる記者の数を減らしたり……といった工夫をしている。

 

それでも、一般向けのプロモーションイベントを開催できないことに変わりはないわけで、各企業にとっては少々頭の痛い状況になっている。これが数か月程度で終息する異例な状況として終わるのか、1年くらい続いて「慣れたところで終わる」形になるのか、それとも、「新型コロナウイルスとは関係なく、オンラインイベント中心で定着」するのか。その答えは、現状、誰も持っていない。

 

では、実際のものづくりの現場はどうなっているのか? そのあたりを次回のウェブ版で解説していきたい。

 

 

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら

 

TAG
SHARE ON