Vol.89-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「新型コロナウイルス流行の影響」。イベントの中止だけでなく、今後の動きにも大きな余波が生じて……。
新型コロナウイルスが生産業に影響を与えているのか? というと、もちろん「イエス」としか答えられない。一方で、単純に「工場が動いていない」という話でもない。
ご存知のとおり、現在は多くの製品が中国で生産されている。中国一極集中が問題となり、ベトナムやインドなどへ生産拠点を分散する動きもあったが、それもiPhoneをはじめとした大手メーカーの一部製品の話であって、現状でも大半は中国の生産系企業と連動する形で商品が作られている。
中国でも新型コロナウイルスの影響が無くなったわけではないのだが、「工場に人が来れなくてまったく動かない」という事態は、ちょっと前の話だ。中国の場合、流行は日本や欧米各国よりも早めで、1月末には顕著な影響が出ていた。この時期は中国のお正月である「春節」にあたり、多くの人が中国国内で移動した時期でもある。この時期に流行が直撃したことで、春節からの工場稼働がかなり遅れた。1、2週間の遅れで済んだところもあれば、正常化に1か月以上かかったところもある。とはいえ、すでに3月以降、ほとんどの工場は「稼働を再開」している状況だ。
だが問題は、春節からの稼働再開が遅れた結果、それがのちのスケジュールに大きく影響している、という点だ。生産する商品は本来時期によって変わる。人員も設備も案件ごとに変わっていく。しかし、稼働が遅れた結果、スケジュールがすべて後ろに倒れてしまった。各社はまず、その影響回避に走った。とはいえ、工場の側を急がせるには限界があるので、いろいろな製品の出荷が数週間から1か月程度遅れる事態になっている。
それ以上に大きいのが「コンテナ」の移動が滞りつつあることだ。感染防止のために、国家間の移動を制限する流れが広がっている。貨物についても例外ではなく、人員を伴って生産地から販売地へと移動するルートが限られてきているのだ。特にニーズの大きな「ヒットの可能性が高い製品」については、こうした影響が大きく出てくる。ヒットを見込める製品は発売の数か月前から作りためて、海路で大規模に輸送する場合もあるからだ。
また、最終製品の生産は問題なくとも、部品の供給と流通で問題が出ることもある。特に、今後登場するヒットが見込める「超量産品」は、近い将来、結果的に調達が間に合わず、生産量を減らすか発売時期をずらすか……という決断が必要になると予想する関係者は多い。次期iPhoneや次世代ゲーム機などは、このタイプの影響を受けるかもしれない。
とはいえ、近年の生産地分散の動きもあって、物流の問題はある程度緩和されるようになっている。現に、食品などの生活必需品を含め、流通自体は止まっていない。
だが、もうひとつの課題として「消費者までの流通」が存在する。リアル店舗の活用はこの時期だと限界があり、Eコマースを通じての販売が増えている。しかし、買う側の消費者は動かなくていいが、通販すれば「通販流通」に関わる人々には負担がかかる。彼らが実際に動かないと商品は届かないのだ。
アメリカではAmazonが、いわゆる「巣篭もり消費」での需要拡大から、流通を担当するフルフィルメントセンターや店舗での人員を、全米で10万人増やす、と発表している。現時点だと、日本ではなかなか顕著な動きはないが、この状況が続くと、同様の話が出てくるかもしれない。
では、今年のガジェット業界は、結局どうなるのか? それについては次回のウェブ版で考えてみよう。
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