Vol.89-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「新型コロナウイルス流行の影響」。イベントの中止だけでなく、今後の動きにも大きな余波が生じて……。
3月27日にソニーは、「新型コロナウイルス感染拡大の影響について」と題したニュースリリースを出した。社員のリモートワーク徹底などの施策が語られたが、同時に、新型コロナウイルスによって業績に影響が出る可能性を示唆したものでもあった。
特に注目すべきは、「生産体制」についてだ。イメージセンサーなど、現在のソニーを支えるパーツの生産は滞らないという。スマートフォンについても、主なサプライヤーである中国が影響を脱しつつあることから正常化しつつある。しかし、「国境を越えた人の移動の制限により、新製品の立ち上げや生産指導のために生産拠点である中国及び東南アジア諸国へエンジニアを派遣することが困難になるなどの影響が出ています(リリースより抜粋)」との記述がなされている。
これはどういうことか?
多くの製品は、中国や東南アジアなどの生産を専門とする企業との協力で成り立っている。製品によって、発注企業と生産企業の関わりは様々だ。実際、発注企業側は簡単な注文を出す程度で、生産企業側が用意した「カタログにある商品にロゴを付けてもらうだけ」の場合も多い。だが、少しでも独自性を出した製品を目指す場合には、デザインや機能など、コアな部分の設計を発注企業側が行い、それを生産に移す際に生産企業と協力して進める、という手順を採る。その場合には、発注企業側のエンジニアや商品企画者が現地に飛び、生産企業側の指導や共同作業を行うのが一般的だ。
だが、いまの状況ではそれが難しい。オンライン会議などである程度はカバーできるが、微妙な部分の指示やチェックは、やはり現物を見ながら現地で行うべきところがある。そのため、「部品も人の手も足りているのに、製品を生産に移せない」という事態が起こりうるのだ。
モノの移動だけでなく、人の移動が阻害されるということは、特に「まだ生産段階まで至っていない」ビジネスに直結する。なので、「すぐに出る製品は大丈夫だが、この先に出る製品」の発売時期が遅くなる可能性があるのである。具体的には、この夏から秋にかけての新製品は大変な部分もあるようだ。
とはいえ、大手メーカーの製品は問題ない。遅れる可能性はあるが、そこまで直接的な影響はないだろう。問題は規模がそこまで大きくない企業だ。企業体力もないメーカーの場合、商品化に時間がかかると、それだけでリスクになる。商品が売れる「旬」を逃す可能性も出てくるし、在庫を抱えるリスクも増える。そもそも、時間がかかればそれだけ経費が増える。細かなガジェット類の場合、水面化では商品化計画がキャンセルされているものもあるようだ。
結果的に、今年の夏から秋にかけては、「大手の皆がよく知る製品は、多少の遅延はあれど発売される」、一方で「ガジェット全体を見ると、細かな製品が少なくなって寂しい感じになる」可能性が高い、と筆者は予測している。大手の製品計画が変わるとすれば、ここから市況が大きく悪化した場合だ。そうなると「来年の新製品まで寂しい状況」になるだろう。
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