デジタル
2020/7/1 7:00

【西田宗千佳連載】ビデオ会議の普及で見直される「ウェブカメラ」の画質

Vol.92-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、ビデオ会議。新型コロナウィルスの流行によって、急速に拡大した新しい働き方の背景を解説する。

 

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が流行するなかで、明確にその位置付けが変わったのが「ビデオ会議」だ。それまで、ビデオ会議は「どうしても時間が取れない時」や「移動が難しい時」に、緊急避難的に行われるものだった。だが、緊急事態宣言が出てステイホームが基本になると、緊急避難的な状況が日常になった。出社せずに仕事するためにも、相手と対面せずに仕事するためにも、いまやビデオ会議は必要不可欠なものになっている。

 

それまで多くの人はビデオ会議を毛嫌いしていたところがあるが、いざやってみれば、その価値もわかってくる。COVID-19との戦いが長期化を避けられないという事実はあるものの、「これはこれで良い」と思う人も多く出たはずだ。こうした状況を反映し、現在、企画段階にあり、今後登場してくるPCやスマホ、タブレットは、ある程度ビデオ会議のことを意識して開発されるだろう。

 

だが、COVID-19が流行する前から、「ビデオ会議のための高画質・高音質」を重視していたメーカーもある。マイクロソフトだ。マイクロソフトはSurfaceシリーズを初めて発売した2012年から、高画質なウェブカメラをウリにしていた。暗い部屋でも明るく写る、アレイマイクを使って声をきれいに収録できるといった要素は、最新のSurfaceにも引き継がれている。PCのスペックとしてはカタログで表現しにくく、「ウェブカメラの画質がいいからこのPCを選ぶ」という人も出づらい部分だったが、とにかく同社はずっとウェブカメラにこだわってきた。2010年代前半には、ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetはなかったが、マイクロソフトにはビデオ通話サービスとしてシェアの高い「Skype」があった。それもあって、「Skypeでのビデオ通話がやりやすいPC」を目指していたのだ。これは、一般的なPCメーカーと、サービスプラットフォーマーであるマイクロソフトとの大きな違いと言える。

 

 

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昨今、ビデオ会議の機会が増えたことで、Surfaceのウェブカメラの画質・音質の良さを見直した人も多いようだ。実は筆者もその一人で、特に音質の良さには驚かされた。HPやDellのPCのウェブカメラも画質が良い、と言われているし、Macもマイクの音質はいい。そういう目に見えづらい部分が、今回の変化で改めて注目されてくるだろう。

 

とはいうものの、PCのウェブカメラはスマホのインカメラほど高画質にはなりづらい。画質がいい、と定評のある製品でも「ちょっと見やすい」程度に止まっている。スマホのインカメラには「自撮り」という圧倒的に強いニーズがあるが、PCのカメラはあくまで事務用であり、自撮りほどの画質を求められていない。スマホほどインカメラにコストをかけられないという事情があるのだ。そのため、今回の変化を経ても、「スマホ並みの画質のカメラ」を備えたPCは増えないかもしれない。

 

そうすると結果的には、スマホやデジタルカメラ、マイクをPCに外付けにし、それらを使って会議をしたほうが見やすい……と考える人は増えるだろう。会議はともかく、ちょっとしたライブや生配信のように「多数の人に見てもらう」ことが前提の映像では、PC内蔵のウェブカメラを用いるのではなく、専用のカメラとマイクを使ったほうが良いのは間違いない。実際、COVID-19の流行が広がると、外付けのウェブカメラやマイクなどが一気に品薄になった。さらに、カメラメーカーから相次いで、「デジカメをPCにつないでウェブカメラのように使う」ソフトが発表されている。

 

こうした動きの背景にあるのはなにか? 次回はそこを解説しよう。

 

 

 

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