Vol.94-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、テレビ市場。コロナ禍のなかで販売好調を記録しているテレビ─その背景に存在する理由はなにか?
多くの場合、映像技術の最先端は「高級テレビ」に集約される。購入希望者が多く、しかも単価が比較的高いので、両者の掛け算の結果、テレビに技術を集約するのがもっとも効率的で儲けやすくなるからだ。
だが、最近はそうとも言えなくなってきている分野がある。それが「ゲーム」だ。背景にあるのは、ゲーミングPCの隆盛と、純粋なオーディオ・ビジュアル用途とのニーズのずれ。別な言い方をすれば「フレームレート」に対する考え方の違いがすべてを分けている。
オーディオ・ビジュアルの世界では「解像感」と「色再現性」が重視される。4Kや8K、HDRといった要素はそれらを改善するための方法だ。一方、1秒間の映像が何コマで構成されるのか、という点については映像の規格で決まっているため、大きくは変わらない。映画なら毎秒24コマ、ビデオなら60コマ。よりコマ数の多い映像(ハイフレームレート、HFR)もあるが、いまは例外的な存在だ。高級テレビは動画ボケ防止などの目的で、映像のフレームレートの数倍で表示する機能を持っているが、それでも基本的にフレームレートは「映像の側で決まっている」ものだ。だから、「4Kなどの解像度でフレームレートを上げる」ことにはさほど熱心ではない。
ゲームも、家庭用ゲーム機だけが存在感を持っていた時代には、テレビの出力に合わせて映像が作られていた。いや、現行製品であるPlayStation 4やXbox One、Nintendo Switchあたりまではそうなっていた、というべきだろうか。
ゲーミングPCが増えて以降、こうした発想は変わり始めた。PCならフレームレートは変えてもいい。特にFPSでは、解像度を上げて映像をきれいにすることより、フレームレートを上げて状況に反応しやすくするほうが有利になる。解像度は1920×1080ドットのまま毎秒120コマ、そして毎秒144コマと上がっていき、現在では毎秒360コマ表示に対応した製品まである。
ゲームによっては、処理能力の制限から画面描画のコマ数に描画自体が間に合わないときがある。そうした時には映像のズレや動作のもたつきが生まれやすいのだが、それを防止する機能もある。俗に「VRR(Variable Refresh Rate)」と呼ばれるもので、NVIDIAでは「G-SYNC」、AMDなら「FreeSync」という規格名が使われることも多い。
PC用のディスプレイはこうした変化を貪欲に取り込み、高フレームレート&多機能という方向に舵を切っている。もちろん、高解像度&高色域重視のものもあるので、ニーズに合わせて選べるわけだ。
PlayStation 5やXbox Series Xといった、今秋に登場する新型ゲーム機は、PCにおけるトレンドを反映し、高フレームレートやVRRに対応する。8K対応が注目されがちだが、むしろ「4K・120Hz」に着目したほうがいいのだ。
残念ながら、最新のテレビであっても、4K・120HzやVRRに対応しているものは多くない。「ゲーム向け」で人気のある東芝・REGZAも非対応。ソニーは海外で4K・120Hzに対応したモデルに「Ready for PlayStation 5」という名称をつけたが、日本では明言されておらず、どのモデルが該当するががはっきりしない。LGエレクトロニクスの2020年モデルについては4K・120HzとVRRへの対応が明言されている。
新型ゲーム機の購入を検討しているなら、PC用モニターで4K・120Hz対応のものか、ハイエンドテレビで4K・120Hz対応がはっきりしているものを選んだほうがいいだろう。
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