Vol.32-4
前回(Vol.32-3)述べたように、ストリーミング・ミュージックは「ヘビーローテーション重視」の時代を促す。そもそも音楽は、他の娯楽以上に、同じコンテンツの反復利用が多い。CDを買うのも、その曲を何度も聞きたいから。楽曲を「たくさん聞いてもらう」ことが音楽を売るビジネスの本質である、という見方をすれば、ストリーミング・ミュージックは根本に立ち返るもの……と言ってもいいだろう。
近年は、ディスク販売のビジネスモデルが限界にさしかかっていた。ライブのチケット優先販売や、握手券などをセットにしたビジネスは、アーティストのファンからより大きな売り上げを立てる、という意味では価値ある存在だ。だが、ある意味“タコが自分の足を食べる”ようなもので、音楽の支持層である「音楽ファンを増やす」という行為にはつながらない。そのため、ヒット曲を増やすべく、音楽ファンの裾野を広げる仕組みが求められていた。ストリーミング・ミュージックはその待望の仕組みになりうるビジネスモデルだ。
また、ストリーミング・ミュージックには、聞き手だけでなく送り手、つまりアーティストのビジネスを変える側面もある。ヒット曲はシェアされてさらに人気を得やすくなるが、無名な曲はそのまま埋もれてしまう可能性がある。事実、ストリーミング・ミュージックが日本より先に定着しているアメリカでは、アーティストの知名度による格差の拡大が懸念されている。キュレーションやレコメンドでは、過去に再生回数が多かったり、アーティストに関する情報が多かったりするタイトルほどピックアップされやすい傾向にある。ここでも、相当意図的に、慎重を期して新作をピックアップする仕組みを作らないと、知名度の高い作品への偏りが出やすい。
音楽業界全体の収益を保つ、という意味では、ストリーミング・ミュージックの導入は必須だ。その結果、動画配信サイトなどで無料で視聴されている音楽をもう少し収益に結びつけることができれば成功だ。
一方、新しいヒットを見つけるには、やはりそれ相応の仕組みがいる。以前に比べれば、アーティスト自身での情報発信は楽になってきた。Apple Musicでも「Connect」というSNS的な機能で、アーティスト側からの情報発信を支援している。この「Connect」は、スマホだけで手軽に更新できるよう工夫されており、テクノロジーに弱いアーティストにも扱えることを目標に開発されたという。一方、日本に目を向ければ、アメブロに公式ブログを作ったり、ニコニコ動画やツイキャスのような「実況メディア」でファンとコミュニケーションを取ったりするアーティストが増えている。いまは物販やディスク販売、ライブへの集客のPRがメインだが、ストリーミング・ミュージック内での自分の楽曲の周知にも当然有効だ。
こうした「ネット時代のやり方」は、もう5年以上模索されてきたものだが、定着したとは言い難い部分もある。どのような策をどう使うと良いのか、CD時代とは異なるプロデュース・拡販のあり方が必須となっている。
Vol.33-1は「ゲットナビ」9月号(7月24日発売)に掲載予定です。
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