デジタル
2020/10/8 7:00

【西田宗千佳連載】「ARM化」は簡単に進まない。x86系の強みとは何か?

Vol.95-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「モダンPC」。実態のつかみにくい概念だった「モダンPC」が、ついにその姿を現しつつある。

 

インテルやAMDの「x86系」CPUと、アップルやクアルコムの「ARM系」CPUとでは何が違うのだろうか? 技術的な詳細はともかくシンプルに言えば、前者は「性能重視」であり、後者は「消費電力とのバランス重視」と方向性が異なる。前回のウェブ版でも解説したように、全体的な性能向上により、現在では、一般的な用途においてはARM系でも十分な性能を発揮できるようになった。というよりも、単純なベンチマークテストならば、アップルやクアルコムのプロセッサーが、同価格帯のインテルCPUを超えるようになってきている。

 

では、もうx86系CPUが不要なのか、というとそうではない。高性能が必要な領域に向けた機器を作るなら、まだまだx86系のほうが有利なのだ。

 

こうした機器の典型例がゲーミングPCやクリエイター向けPCだ。こうしたPCは、NVIDIAやAMDのハイエンドGPUを使い、メモリも大量に搭載することを前提としている。そのためのエコシステムは現状、x86系PCにのみ存在する。アップルが自社開発の「Appleシリコン」への移行を発表しているが、最大の課題であり疑問点は、クリエイターが求めるハイエンド環境を本当に自社プロセッサーで用意できるのか、という点にある。クアルコムのPC向けプロセッサーは現状、ゲーミングPCやクリエイター向けPCを想定しておらず、明確な棲み分けが存在する。少なくともあと2、3年は、「ハイエンドPCはx86系」という流れは変わりそうにない。

 

とはいえ、そうした状況が変わる可能性もある。

 

非常に気になるのは、先日、ARM社をNVIDIAが買収したことだ。「他社との関係は継続する」という声明を出しているが、NVIDIAの最新GPUをARM系プロセッサーで使う準備のためのハードルは下がる。そもそも、NVIDIA自身がそれを望むだろう。もうひとつのGPUの雄、AMDもARM・サムスンと共同でプロセッサーを開発中で、こちらも「GPUを強化したARM系プロセッサー」として世に出る可能性が高い。

 

また、個人向けPCとは関係ないが、サーバー向けのプロセッサーとしてはARM系の需要も増えている。これらは大量に集積して使うのが一般的で、消費電力と発熱の低減が、個人向けPC以上に重要だからだ。

 

一方、見落としがちなのが「コスト」だ。2020年までに発売された「クアルコム製プロセッサー採用PC」はヒットしていない。コストが意外と高く、x86系を使った普通のモバイルPCと価格が変わらなかったからだ。劇的な違いがないなら、価格的にこなれていて安心できるものを買う人が多いのは当然のこと。それだけ、大量生産に伴う「x86系PCの製造エコシステム」は強い、ということだ。よほど性能や消費電力、コストの面で傑出したものにならないと、切り替えは進みにくいだろう。

 

ここで注目すべきはプロセッサーの切り替えを自社の判断で、ある意味「無理矢理」すすめられるアップルだ。iPhoneやiPadなども展開する同社では、ARM系への切り替えはコスト的にもインテルに依存するより安くなる可能性が高い。そういう意味では、Windows PCとMacでは、置かれた状況が大きく異なっている。

 

とはいえ、今後、x86が主流である現状をARM系がひっくり返すには、クアルコムがいかにPCメーカーとの関係を強化するかが重要だ……ということは間違いない。

 

そのなかで、いままではあまり注目されてこなかったが、コロナ禍のいまだからこそ大切な要素もある。それが何かについては、次回のウェブ版で解説しよう。

 

 

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