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2016/8/1 12:38

【西田宗千佳連載】次世代でなく「ハイエンド」、パワーアップするPS4の狙い

「週刊GetNavi」Vol.45-1

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異例の情報公開だった強化版PS4の開発

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、6月に米国・ロサンゼルスで開かれたゲーム展示会「E3」に先立ち、「現在、プレイステーション4(PS4)の性能強化版を開発中である」こと、そして「それがE3では発表されないこと」を、一部メディアを通じて公開した。

 

“イベントで新製品を発表しないこと”を公開するのは異例な事態である。SIEのアンドリュー・ハウス社長は「噂が出回っており、正しい情報を伝える必要があると判断した」と筆者に語っている。PS4は欧米で大人気ではあるが、まだ発売時期すら決定していない新モデルの噂が出回ることは、現行版の買い控えにつながるため、SIEにとって得策ではない。

 

これまでゲーム機の「強化型」は失敗続き

一般的にゲーム機の新型、というと「次世代ゲーム機」というイメージになるが、SIEが企画中の「ハイエンド版PS4」は次世代ゲーム機ではない。「グラフィックが若干美しくなるだけで、ゲームの体験はまったく変わらない。ハイエンド版だけで作動するゲームもない」(SIEハウス社長)という。

 

これは、家庭用ゲーム機のビジネスモデルとしては異例なことだ。家庭用ゲーム機は同じ性能の製品が最低5年、長い場合には10年間販売されることで「安定的なプラットフォーム」になる。それが、大規模なビジネスを志向するゲームメーカーを引き付け、ユーザーも安心して使える、という部分があった。これまでもパワーアップ版のハードを売ったゲーム機はあるが、販売のテコ入れという側面が大きかったし、そもそも「パワーアップ版」はあまり普及せず、パワーアップ版を生かすゲームもほとんど出ていない。

 

PS4は発売からまだ3年足らず。しかも世界的に大ヒット中で、日本でもようやく普及に加速がつき始めた。絶好調のなかで「テコ入れ」はいらない。

 

「ハイエンド版はPSVR向けではない」

現行品との差は本当にグラフィックだけで、しかも2Kが4Kになるほどの劇的な差ではない、という。一部では「VR(PlayStation VR)」。10月に発売が予定されているPS4専用のヘッドマウントディスプレイ)では、現行版のPS4だと性能不足なのでハイエンド版を主軸にしたいのだ」との意見もあるが、ハウス社長は「VRは現行版のPS4で問題ない。ハイエンド版はVR向けではない」と一蹴している

 

狙いは画質にシビアなコアなユーザーたち

狙いは「本当のコアゲーマー」と「4Kテレビ購入者」だ。それらの人々は画質にシビアで、高性能PCやハイエンドAV機器へ率先して移行している。コアなユーザーは、多くのゲームを買ってくれる優良顧客であり、他の人々への影響力も強い。パワーアップ版PS4の開発は、彼らを逃さないために特別なモデルを作る、ということだ。

 

では、これまでうまくいかなかった「パワーアップ」型ビジネスモデルが成立するようになった理由は? そして、ライバルの動向はどうなのか?

 

その辺はVol.45-2以降で解説していく。

 

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