デジタル
2020/12/25 7:00

【西田宗千佳連載】AppleシリコンMac、予想外の快進撃

Vol.98-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「Appleシリコン」。ついに登場した話題のアップル製CPU搭載モデルが一躍好評を博している理由とは。

 

自社製CPUへの転換はいずれ来る未来だった

アップルが2020年11月に発売した「Appleシリコン版Mac」は、事前には予想できなかったほどの高評価を得ている。市場調査会社BCNの調べでは、11月17日の「Appleシリコン版Mac mini」発売以降デスクトップPCにおけるアップルのシェアは急上昇。他社を抜いてシェアトップに躍り出た。

 

理由は2つある。「速い」ことと「思った以上にトラブルが少ない」ことだ。

 

筆者を含む多くの専門家は、アップルがMacのCPUをインテル製から自社製へと変えることは必然であり、「いつか起こること」と予想していた。コアパーツの仕様策定と供給を他社に握られていることは、商品展開の自由度を著しく狭める。i Phoneとi Padにおいて、アップルは「自社で設計してイニシアチブを取ると、どれだけ有利な立場で振る舞えるか」をよく理解していた。そしてi Phoneおよびi Pad向けに開発してきた「Aシリーズ」は、ノートPC向けのCPUと比較するなら、すでに性能面での不利はなくなっていたのだ。Macに向けた最適化設定をすれば、ハイエンドPCほどではなくても、一般的なノートPCとしては十分に快適な速度と長いバッテリー動作時間を両立できるのは間違いなかった。

 

問題は、PC(Mac)の場合、スマホやタブレットより、ソフトの互換性が重要になる、という点だ。アップルはMacで、過去に2回、CPUのアーキテクチャを変更している。その際は毎回、ソフトの互換性を維持しつつ環境を移行していくことに苦労していた。今回についても、製品が出るまでは「移行には相応の時間が必要で、製品が出てもすぐに実用的なものにはならないだろう」という予想を立てている人が多かった。

 

Apple Mac mini 実売価格/8万80円~

 

だが、その予想は良いほうに裏切られた。アップルは非常に良い仕事をした。インテル版のソフトをそのままAppleシリコンで動かすための「Rosetta2」の完成度が高く、多くのソフトが本当に「そのまま動いた」からだ。100%の互換性、とはいかなかったが、ほとんどのソフトが極端な速度低下を伴うことなく利用できた。

 

しかも、マイクロソフトやアドビはもちろん、グーグルまでがAppleシリコン対応版を早期に用意した結果、性能を生かしたアプリが使えるようになるのも早かった。これは、アップルが用意したAppleシリコン版の開発環境の信頼性が高く、開発が容易だったからだろう。

 

Mac全体のコスパが著しく向上する結果に

結果として、Mac向けAppleシリコンこと「M1」を搭載したMacは、どれも動作が速いのにファンがあまり回らずに静かでバッテリーも持つ、快適な製品になった。価格も比較的安価であり、Macが一躍「コストパフォーマンスの良いPC」になった感がある。

 

もちろんマイナス面はある。Thunderboltインターフェイスの搭載数は最大2つに半減し、メモリの最大容量も16GBと多くはない。性能が高いとはいえ、最高性能のゲーミングPCやワークステーションほどではない。そうした部分にどう対応していくのか? そのあたりの予想はウェブ版で解説していくこととしたい。

 

 

 

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