デジタル
2021/1/7 7:00

【西田宗千佳連載】伸びきれていない「ARM系Windowsマシン」の可能性

Vol.98-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「Appleシリコン」。ついに登場した話題のアップル製CPU搭載モデルが一躍好評を博している理由とは。

 

M1搭載Macは、いわゆる「ARM系CPU」を使ったプロセッサーである。ARMはCPUのアーキテクチャを他社にライセンスする企業であり、インテルやAMDのように「プロセッサーそのものを売る」会社ではない。なので、アップルはARMにライセンスを受けて自社でプロセッサーを作っている。

 

他のスマホメーカーは、ARMからライセンスを受けた別のメーカーからプロセッサーの供給を受ける形になっている。その最大手は、みなさんもご存知の「Snapdragon」シリーズを作っているクアルコムだ。

 

クアルコムはスマホ向けプロセッサーだけでなく、ノートPC向けのSnapdragonも作っている。また、マイクロソフトと協力し、「Surface Pro X」シリーズ向けにオリジナルのプロセッサーも作った。

 

だが残念ながら、これまで、それらの「ARMを使ったノートPC」は、あまり高い評価を受けていない。消費電力の低さは注目されるものの、M1 Macのように性能や快適さが注目されたことはほとんどない。

 

これには理由が3つある。

 

一つ目の理由は、ARM版のWindowsでは、これまでアプリケーションの互換性に制限があったことだ。2020年末になってようやく、すべてのx86系CPU向けアプリがARM版Windows上で動くようになったが、それでもまだテスト段階であり、認知度は高くない。

 

二つ目はメモリの扱い。M1は高速なメインメモリをCPU・GPUと混載する形で構成している。結果としてメモリの扱いが効率的で、動作速度に反映されている。それに対してこれまでのPC向けARM系プロセッサーは、スマホの延長線上で作られており、メモリの量や帯域に課題があった。最新のプロセッサーでは改善が進み、クアルコムはすでに「インテルのCore iシリーズより速い」と謳っている。

 

三つ目がコストだ。現状、PC向けのSnapdragonは比較的高価で、搭載PCもそこまで安くはない。インテルやAMDによるx86系プロセッサーを使ったノートPCと同じような価格帯では、パフォーマンス的に大きな向上が見えない以上、選択肢が多い「既存のx86系PC」を選ぶのが普通、といえるだろう。

 

こうした課題はこれから解消されてくる可能性もある。M1の登場により、「x86系でなければならない理由はない」ことが見えてきたからだ。実用性という意味では、Windowsでは当面インテル・AMDが優位な時期が続くだろう。だが、数年のうちに「ARM系Windowsを選ぶ人」も増えてくる可能性はある。事実、ChromebookではCPUの種類はあまり重要になっておらず、単純に価格によって採用するプロセッサーが違ってくるという印象だ。いずれPCにもそういう時代がやってくる可能性は高い。

 

では、「x86系ではないプロセッサーの増加」はどんな意味を持っているのか? そこは次回のウェブ版で解説したい。

 

 

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