「週刊GetNavi」Vol.33-4
マイクロソフトは近年、ハードウエアビジネスを強化する傾向にあった。その象徴はもちろん、同社製PCである「Surface」シリーズだ。現時点で販売されているWindows搭載PCのなかでも、特に魅力的な製品であることに疑いはない。
過去、マイクロソフトは「OS販売に特化し、ハードウエアはパートナーが製造して販売」というビジネスモデルを採ってきた。しかし、2012年秋、Windows 8の登場に合わせてSurfaceが登場すると、そのモデルは崩れた。
Appleがこの10年間で成功させたビジネスモデルは、「自社製品に特化したOSを作り、製品全体での魅力を高める」ことだった。OSとハードウエアのビジネスが分離されている場合、非常にバリエーションの広い製品が世に出て行くものの、作り込みによる価値追求には不利な部分がある。マイクロソフトの判断として、「Windowsに最適化したハードウエアを自ら作る」ことで、Appleのやり方をある部分で追いかけた、と言える。マイクロソフトとPCメーカーの関係悪化が懸念されたが、Surfaceはモバイル市場に特化しており、バッティングする領域が広くはなかったからか、深刻な事態とはなっていないようだ。
とはいうものの、自社でハードを作って利益を最大化するという戦略は、現在修正の段階に入っている。「ハード一体戦略」の面でマイクロソフトが本命視していたのは、PCではなくスマホだった。だが、Windows Phoneが伸びてこないため、そこに強い投資を行うリスクは高まっている。ヒットすれば数千万台・数億台の市場だが、その分の投資リスクも大きいからだ。マイクロソフトは7月8日、同社のスマホ製造部門で大規模なリストラを行うと発表した。約7800人もの人員を削減し、関連資産76億ドル(約9200億円)を負債処理した。「大規模にハードを売って利益を得る」モデルはもう採らない、という宣言に等しい。
しかしマイクロソフトは「Surface事業を止めることはない」「ハイエンドのWindows Phoneは製造販売を続ける」としている。理由はなぜか? それは、ハードウエアとしての利益ももちろん大事だが、それ以上に「ショーケース」としての意味合いが強いからだ。Windowsである価値を追求するには、OSがWindowsであることが魅力的なハードが必要。それを作るには、他社に依存するより、自らが手がけた方がいい。ここからさらに「あらゆるところにWindows」戦略を広げるなら、特に重要だ。
マイクロソフトは7月から、海外市場で大型タッチディスプレイPC「Surface Hub」を発売した。また、ヘッドセット型で実景に映像を重ねて操作する「Microsoft HoloLens」も開発中である。こうした機器ではWindows 10コアが動き、Universal Appとマイクロソフトのネットサービスが動く。ビジネスとしての規模感は未知数だが、「未来にはこういう世界が拡がっている」ということを示すショーケースとしては大きな価値を持つ。ショーケースとしてのハードウエアを突き詰めることが、OSメーカーとしてのマイクロソフトの価値拡大に直結しているのである。
Vol.34-1は「ゲットナビ」10月号(8月24日発売)に掲載予定です。
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