デジタル
2021/4/7 19:05

【西田宗千佳連載】「半導体不足」の裏にある、メーカーが抱える「需要コントロール」のシビアな実態

Vol.101-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「PS5の品不足」。欲しい人になかなか行き渡らない、その背景にある“原因”はいったい何なのか?

 

半導体が不足したならば、製造ラインを増やせばいい……と考えがちだ。だが、半導体は投資判断が非常に難しい。理由は、半導体の製造ラインは「フルに動いている」形を維持するのが基本であること、そして、半導体の「作り溜め」が非常に難しいことにある。

 

半導体の需要がずっと続くならば話は簡単だ。製造ラインを増やしてもその需要は埋まるので、投資判断はしやすい。だが、需要は時期によって変わる。半導体生産ラインは、稼働率が常に80%から90%の間であることが望ましい、と言われている。80%を切ると効率が落ちて赤字が出やすくなり、90%を超えると需要を満たせなくなる可能性が高くなる。非常に微妙なコントロールだ。そもそも、半導体製造ラインの追加には数千億円単位の費用がかかるため、勝算のある計画を立てるのが難しいのだ。このあたりは、半導体だけでなくディスプレイパネルも事情が近い。日本企業は過去10年、この投資コントロールに失敗し続けて、「先端パーツ供給」の舞台から退いていった。なんとか競争力を維持できたのはソニーくらいのものだろうか。そのソニーも、常に需給コントロールが経営課題として語られる。

ソニー・インタラクティブ エンタテインメント PlayStation 5/実売価格5万4978円

 

ならば、需要が少ない時期には「作り溜め」をして、需要が上がった時にはそれを出荷することで、工場からの出荷需要をコントロールすればいいのでは……。そんな風に思う人もいそうだ。半導体は野菜ではないのだから、腐りもせず作り置きできそうに見える。

 

だが、実際はそうではない。部品によっては長く備蓄できるものもあるのだが、半導体を使うプロセッサーなどのパーツはそうもいかず、数か月に渡るような長期間、在庫しておくのは難しい。

 

理由は、湿度などに弱いからだ。特に「錆」の問題は大きい。海の近くでもなければそんなには……と思われそうだが、電子部品は「組み立てる前」の場合、端子類が錆びやすい。各種耐久性は「正常に組み立てた後」を想定したものになっていて、すぐにはんだ付けなどで隠れてしまう部分の強度は、必ずしも高くない。それでも、輸送や保管の過程で工夫すれば1、2か月は持つが、需要期を待って倉庫に半年寝かせておく……といったことは、トラブルのリスクや検品コストを考えても難しい。

 

というわけで、半導体メーカーとしては「できるだけ在庫を積み上げずに流せて、しかも生産ラインも空きができない」ようにコントロールする必要に迫られる。自動車や家電、スマートフォンなどを作る最終製品メーカーとしても、在庫は最終製品として持ちたい(こちらなら部品で持つよりリスクははるかに小さい)ので、数か月以内の需要に基づいて発注するのが基本だ。

 

こうした事実が積み重なると、安易に「半導体不足だからすぐにラインを作って」とは言えないのが実情である。

 

このことは、世界的な生産におけるリスクになってきている。では、実際には今後どうなっていくのか? また、企業はどう対応しているのか? そのあたりは次回のウェブ版で解説したい。

 

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