Vol.102-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、低コストな個人向けコンピュータ市場。低価格デバイスとして広がってきている「Chromebook」に対してアップルやマイクロソフトはどう対抗していくのかを探る。
海外だけでなく日本でも、低価格なデバイスとしてChromebookが広がり始めた。まずは教育市場向けが中心だが、家庭内でのネット端末として選ばれる率が増えていく可能性はあるし、それだけの能力がある。
ノートPCを作ってきたメーカーやGoogleは、このプラットフォームを活用することでビジネスができる。では、これまでGoogleと戦ってきた側であるアップルやマイクロソフトはどうするのだろうか?
アップルの戦略はシンプルだ。iPadという競争力のあるプラットフォームがあるので、それを活用すればいい。価格レンジも、4万円以下から用意されているし、アプリやサービスの量も申し分ない。
ではマイクロソフトは? 実はこちらのほうが課題は多い。
低価格なWindows PCを用意することはできる。事実、GIGAスクール構想向けの製品としてはそうしたものは少なくない。パーツレベルで言えば、ChromebookであろうがWindows PCであろうが大差ない。だが問題は、現在のWindows 10を使う場合、3万円程度で入手できるハードウェアのスペックでは快適なものになりづらい、ということである。少なくとも、Chromebookと同じ快適さにはならない。
そうなると必要とされているのは、「低スペックなハードウェアでも快適に動作するWindows」ということになる。
実は、マイクロソフトはそうしたものを開発している。「Windows 10X」と呼ばれるものがそうだ。だが、このOSを搭載したデバイスはまだ発売されていないし、OSも正式公開されていない。
Windows 10Xは当初、2画面デバイスを含めた新しいハードウェアなどを想定し、核となる部分から作り直した新しいWindows、という意味合いを持っていた。そのうえで既存のWindows用ソフトもすべて動くようになり、次第に代替していく……という計画だった。より新しい技術で開発したものなので、スペックの低いハードウェアでも快適に動く想定もされていた。
だが、開発の難航により、位置付けが少々変化している。2画面デバイスなどでの活用は後退し、既存のWindows用ソフトを動かす計画も一時的に停止された。その結果、現在ではウェブアプリやWindows Store向けに開発されたUWPアプリなどだけが動作する特別なWindows、という位置付けになっている。結果的には「スペックの低いハードウェアでも快適に動く別のWindows」になる可能性が高い。となると、Windows 10 Xマシンは「マイクロソフト版Chromebook」と呼べる製品になりそうな雲行きだ。マイクソフト以外にも、同OSのライセンスを受けて低価格コンピュータを作るメーカーは出てくるだろう。
ただし、Windows 10Xの計画はまだすべてが正式に公開されたわけではなく、Chromebook対抗のWindowsという方向性は「予測」に過ぎない。少なくとも2021年後半まではいまの状況が続くだろう。その後、どうなるかは状況を精査する必要がある。
どちらにしろ、「一般的なPC」とは別に「低コストな個人向けコンピュータ」の市場が立ち上がりつつあり、現状、アップルとGoogleがそこをカバーしているのは事実だ。マイクロソフトとしても無視できない領域であり、2022年に向けて何かしらの変化が見えてくると予測できる。
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