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2021/10/13 19:30

楽天モバイルがauローミングを停波、楽天回線のメリットは何か

2021年8月末に、自社回線のサービスエリアが人口カバー率92.6%に達した楽天モバイル。これに伴い、10月1日以降、KDDI回線を用いるローミングサービスを順次終了し、楽天回線によるサービスに切り替わっています。

 

この切り替えのメリットはどこにあるのか、圏外エリアが生じるなどのデメリットはないのかなど、代表取締役副社長の矢澤 俊介氏にお話をうかがいました。

↑インタビューは、東京都が緊急事態宣言発令中だったこともあり、Zoomを用いてのオンラインで実施

 

パートナーとの協力、AI、ドローンなどの活用で人口カバー率約93%を達成

まずは、矢澤氏から楽天モバイルのサービスエリア展開状況について説明を受けました。

 

2020年に「携帯事業の民主化」を掲げて、携帯事業に本格参入した楽天モバイル。基地局はゼロから設営する必要があり、参入の2年前から準備を開始したとのこと。

 

基地局を建てる場所を探して、地権者に交渉し、実際に設営するまでの作業は、工事会社に一括して委託するのが一般的。しかし、楽天モバイルでは「楽天がなぜ携帯事業に参入するのか? 我々が目指す世界観について説明し、ご賛同いただいた会社に参画いただくというステップを踏みました」(矢澤氏)とのこと。

↑工事会社と対等な関係でパートナーシップを組んだことが、既存の携帯事業者との違いだそうです

 

用地確保においては、楽天が展開するさまざまな事業のパートナーの協力も得たとのこと。業務提携を進める日本郵政グループからは、全国に約2万4000あるすべての郵便局を基地局の候補として提供してもらっているそうです。また、用地確保のために、約800名の社員を楽天グループの他事業より動員し、社員自らが用地の確保・交渉に動いたと説明。

↑楽天グループがこれまでに培ってきたパートナーとの関係性が、迅速な用地確保につながったとしています

 

後発ながら、スピーディーにエリア拡張を進められた背景には、テクノロジーの活用もあります。「弊社には100人を超えるAIのチームがあります。さらに、ビッグデータを扱うチームが加わり、どこに基地局を設置すると最も効率的なのかを調べて、強力にサポートしてくれました」(矢澤氏)

 

また、アンテナを設置する場所と竣工後の調査にはドローンも活用。「本来なら人が登るところをドローンが調査ました。どれくらい正確に調査できるのかという課題はありましたが、実際にはカメラでズームすると小さなビスまで捉えることができ、人が登るよりも精密な検査が可能だったので、記録も取れました」(矢澤氏)

↑山間部などに建てる長いポールを使ったタワー型のアンテナは、従来は鉄製のものでコストがかかっていましたが、楽天モバイルでは軽量なカーボンを用いたことで、コストダウンにもつながったといいます

 

2020年4月のサービス開始時は、楽天回線エリアは東京23区、名古屋市、大阪市のみで人口カバー率は23.4%。それ以外のエリアでは、KDDI回線のローミングを用いていました。現在は、楽天回線エリアが全国に広がり、人口カバー率は約93%に達しています。

↑約1年半で楽天回線の人口カバー率は大幅に向上

 

10月1日から39都道府県で順次ローミングを停波

楽天回線エリアの拡張に伴い、実施されたのがローミングの停波。すでに一部のエリアでは昨年10月からローミングを停波して、楽天回線だけにつながるように切り替わっていますが、2021年10月1日からは全国の多くのエリアで切り替えがスタートしています。

↑2021年10月1日からのローミングサービスの切り替え対象エリアは39都道府県に及びます

 

↑岩手県、山形県、山梨県など8県ではローミングサービスが当面継続

 

矢澤氏によると「東京23区、名古屋市、大阪市以外のほとんどの場所では楽天とKDDIの両方の電波が飛んでいる状況。お客様がお使いの端末によっては、楽天回線が開通している場所でも、KDDI回線につながってしまうことがあります。その場合、ローミングで月に5GBを超えると速度制限が課されてしまいます」とのこと。ローミングを停波することで、確実に楽天回線につながり、無制限のプランで安心して使えるようになるわけです。

↑楽天回線とKDDI回線の両方がつながる場所では、古いデバイスは低い周波数をつかんでしまい、KDDI回線につながってしまうこともあるそうです

 

「財政的な観点でも、我々はKDDI様にローミング費用をお支払いしていて、楽天回線につながる場所でも、KDDI回線につながると、その分は支払わなければなりません。それを改善することと、お客様のアクセシビリティを上げることが、今回の切り替えの目的です」(矢澤氏)

 

さらに、楽天モバイルは地下鉄のエリア化も進めています。東京メトロでは、すでに約9割のエリアを、地上と同じく10月1日以降にローミングを停波して、楽天回線に切り替えるとのこと。

↑地下鉄構内での基地局設置も進んでおり、東京メトロの多くの駅ではローミングが停波し、楽天回線に切り替わります

 

ローミングが停波することで、つながらなくなることを不安に思う人もいるでしょう。「その可能性がある方には、我々からお電話をさせていただいて、万が一、電波に不安があれば、至急改善することをお伝えしています。すでに1万人以上に電話させていただきましたが、98%の方からは『待ってました』とポジティブな声をいただいております。残りの2%の方には、MVNOの端末やモバイルルーターの貸し出し、自宅用の小型アンテナの設置など、個別の対応を行っています」(矢澤氏)。

↑ローミングから楽天回線への切り替えによって、つながりにくくなった場合の対応策も用意されています

 

↑電波状況の改善や調査は、Webなどから依頼できます

 

商業施設やオフィスビルでは引き続きローミングを実施

事前の説明を受けたうえで、編集部からの質問に答えていただきました。

 

―― 楽天回線エリアは、従来「夏頃に人口カバー率96%」という達成目標を発表していたと記憶していますが、やや遅れが出ているのでしょうか?

 

矢澤氏 結論から言えば、少し遅れています。その理由は半導体不足の影響によるものです。我々は約5万本のアンテナを建てる計画で、すでに3万本のアンテナが電波を発射しています。さらに1万本のアンテナがすでに建っているのですが、ひとつの部品だけ納入が遅れていて、そのアタッチメント待ちの状態です。本来は夏までに入って来る予定だったのですが、今のところ12月をメドに納入される見通しです。

↑今年4月にメディア向けに開催されたイベントでは、夏頃までに人口カバー率96%を達成する見込みが伝えられていました

 

―― そもそも96%は、参入当初の計画から5年前倒しにした目標だそうですが、基地局設置をスピーディーに進められた秘策があるのでしょうか?

 

矢澤氏 振り返ると、特別な魔法の杖があったわけではなく、工事会社のみなさん、NTT東西の関係者のみなさん、部品の納入会社のみなさん、そして社員の頑張りに尽きると思います。全員が同じ目標に向かってワンチームで動けたことが一番重要だと思っています。今は、コロナ禍でFace to Faceでお話しができない状況ですが、それ以前に、顔と顔を合わせて打ち合わせをして、信頼関係を築けたことが大きいと感じています。

 

―― 現状、商業施設やビル内などでは、まだ楽天回線につながらず、KDDI回線につながることが多いように感じます。建物内の基地局の進捗はいかがでしょうか?

 

矢澤氏 商業施設とオフィスビルでも、自前での工事を進めております。ただ、今回のタイミングでは、まだ工事が完了していないところが多く、東京都内、名古屋市、大阪市も含めて、大規模な商業施設とオフィスビルについては、引き続きKDDI様の回線をお借りしている状況です。次の切り替えのタイミングは来年3月になりますが、準備ができ次第、順次楽天回線に切り替えていく予定です。

 

―― ローミングに使っているKDDIの回線は800MHzのプラチナバンドですが、携帯事業を行ううえで、やはりプラチナバンドはあった方がいいのでしょうか?

 

矢澤氏 電波の特性上、低周波数に利点はあると思っております。ただ、いろいろな関係者の方々が、いろいろなご意見を持っていらっしゃるので、われわれが欲しいと言って、いただけるものではないということも理解しています。まずは、免許をいただいた1.7GHzでやれることを先にやらなければならないと思っております。

 

5Gエリアの拡大はやろうと思えばできる

―― 5G対応の端末が増えてきましたが、まだ楽天モバイルの5Gエリアは狭いように思います。今後の拡張予定についてお聞かせください。

 

矢澤氏 5Gの基地局もすでに数千局が開通しています。弊社の4Gの基地局には、5Gのアンテナが付けられるようになっています。なので、すでに開通している3万局については、順次5Gのアンテナを取り付けていきます。ただし、まずは4Gのエリア拡張を最優先にしているのが現状です。

↑5Gのエリア展開については、2022年に向けた具体的な計画は示されていません

 

―― 最初から4Gと5Gの共用のアンテナを設置することはできなかったのでしょうか?

 

矢澤氏 2つパターンがあります。アンテナの先端部分を「Radio Head(レディオヘッド)」と言いますが、すでに設営した4Gの基地局に5GのRadio Headを取り付けることもできます。また、4GのアンテナのRadio Headを変えずに、そのまま5Gに転用することも技術的には可能ですが、現状は、4Gの部品が先に揃っているので、それを先に付けている状況です。

 

―― 楽天モバイルが導入する「完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク」が、ネットワーク構築のうえで有利になることはあるのでしょうか?

 

矢澤氏 基地局のハードウェアをほとんど変更することなく、5Gに切り替えられることがメリットです。なので、これから、大きな威力を発揮するタイミングになると思っております。

 

―― Webサイトには2022年3月までの5Gサービスの拡大予定エリアが公表されていますが、5Gの基地局数や人口カバー率の具体的な目標は設定されていますか?

 

矢澤氏 社内的には、5Gエリアの拡張目標について、少しずつ固まりつつあります。しかし、他社のように何年までに何万局といったメッセージは、まだ発表していません。弊社の場合、4Gから5Gへの転用が容易にできるので、言い方はあれですが、やろうと思えばできます。しかし、どれくらいの規模で、どれくらいのキャパシティで5Gに変えていくのかは、パラメーターを見ながら検討する必要があります。

 

―― 最後に、KDDIのローミングを停波して、楽天回線に切り替わることで、ユーザーに直接的なメリットはありますか? ローミングコストが抑えられて、それがユーザーに還元されたりするのでしょうか?

 

矢澤 (ローミング費用については) 現時点でお話しできることはありません。それは、また違うタイミングで。ただ、地方は楽天回線とローミングのオーバーラップエリアがほとんどだったので、楽天回線で使えるようになることが、お客様にとって大きなメリットになります。それは、まだ楽天モバイルを利用されていない方々にもアピールしていきたいと思います。

 

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