2021年は引き続き、世界的な新型コロナウィルス流行の影響が大きく感じられた1年ではありましたが、そのような状況下でも、PC業界にはさまざまなトピックがありました。この記事ではそんなPC業界の動向を振り返り、それぞれのトピックの影響や2022年の展望を解説します。
【明るい話】熾烈さを増すインテル vs AMDのCPU性能競争。来年の注目は?
ここ数年にわたり、デスクトップPCやノートPC、サーバー向けのCPUで熾烈な性能競争を繰り広げているのが、どちらも米国の半導体企業であるインテルとAMDです。
特にデスクトップPC向けCPUに関して言えば、2017年にAMDが販売開始した「Ryzen」シリーズが成功。世代更新を重ねるごとに大きく性能を伸ばしたことで、直近ではパフォーマンス面でインテルのCoreプロセッサーを圧倒してきました。
10コアを超えるようなCPUが当たり前になった現在ですが、コンシューマー向けCPUの「メニーコア化」を促したのはRyzenシリーズの功績であり、しばらくはデスクトップCPU関連の話題もRyzenを中心に回っていた印象があります。
一方、長らくAMDの後塵を拝していたインテルは2021年3月に「第11世代Coreプロセッサー(コードネーム:Rocket Lake)」を発表したものの、こちらは前世代からの性能向上が控えめで、それほど成功したとは言えません。
しかし、11月には満を持して「第12世代Coreプロセッサー(コードネーム:Alder Lake)」を販売開始。これがAMDのRyzenを性能面で大きく上回っていたことが、業界で大きな話題を呼びました。
第12世代Coreプロセッサーは、従来から設計を大きく変更し、2つのCPUコアを1つのCPUとして組み合わせるハイブリッド構成を採用しているのが最大の特徴です。高負荷な作業は高性能な「Pコア」、バックグラウンドタスクなどの低負荷な作業は高効率な「Eコア」に割り振ることで、パフォーマンスと電力をそれぞれ効率化。総合性能が大幅に向上し、数年越しにAMDへの反撃を果たしたと言っていいでしょう。リリースから2ヶ月ほどの期間ではありますが、売り上げも好調なようです。
対するAMDはサーバー向けCPUとして第3世代「EPYC」をリリースし、市場シェアも好調をキープしている一方で、今年はCPUに関してそれ以外の大きな発表はありませんでした。
第12世代Coreプロセッサーに対するカウンターとしては、2022年に「3D V-Cache」技術でキャッシュ容量を大幅に増やした新CPU、さらに新アーキテクチャ「Zen 4」を採用する新製品の投入を予定しており、こちらに大きな注目が集まっています。
インテルの復活によりがぜんおもしろくなってきたCPU性能競争。これによりAMDもさらなる性能向上を迫られることになり、ユーザーとしては結果として良いCPUを手にする機会が増えそうです。合わせて現在良いCPUも手ごろな価格に落ち着くことも予想されます。こうした競争はユーザーにとっては明るい話といえるでしょう。
【明るい話】ノートPC市場はハイエンド指向に?
インテルとAMDのCPU性能競争も影響して、ここ数年はデスクトップPC・ノートPCともに目覚ましい性能向上を見せています。特に注目したいのが、ハイエンドノートPCです。直近で言えば、Appleが「M1 Pro」「M1 MAX」を採用した極めて高性能な「MacBook Pro」を発表して話題になりました。
「M1 Pro」および「M1 MAX」はAppleが独自に展開するSoCで、どちらも写真や動画といったコンテンツ編集を行なうプロのクリエイター向けに調整されたものです。従来のMacBookに搭載されていた「M1」と比較すると、CPU性能がおおむね1.6~1.8倍前後、GPU性能が2~4倍に向上するなど、凄まじいパフォーマンスを誇ります。
一方、AMDは2021年6月にノートPC向けGPU「Radeon RX 6000M」シリーズを発表しました。最新世代のGPUアーキテクチャ「RDNA 2」を採用し、前世代の「RDNA」系GPUに比べるとパフォーマンスは最大で約1.5倍の向上、同等の性能を発揮するための消費電力は最大約43%低減をうたいます。
このGPUと、AMD向けのハイエンドCPU「Ryzen 9 5900H」を組み合わせたノートPCとして、ASUS「ROG Strix G15 Advantage Edition」など複数製品がリリースされており、ゲーミングノートPC市場で注目を集めています。
コロナ禍の根強い在宅勤務ニーズなどの影響もあるのでしょうが、いずれにせよ今年のノートPC市場の新製品は、持ち運びやすいモバイル向けよりも、やや大画面かつ高性能な製品が目立った印象です。
2022年は先に述べた第12世代CoreプロセッサーのノートPC版が出荷されることもあり、ひとまずはそちらに話題が集まりそうです。Windowsでハイスペックなモデルを探している人にとっては明るい話になるでしょう。
【明るい話】注目のモバイルディスプレイは大手も参入、ニーズの高まりか?
2020年以降、グッと話題に上る機会が増えたPC周辺機器のひとつにモバイルディスプレイがあります。ノートPCに接続して外出先などでマルチディスプレイ環境を構築したり、スマートフォンにつなげて大画面でコンテンツを楽しんだり、比較的手ごろな投資でさまざまな使い道があるのが魅力です。
2021年の新製品として注目を集めたモバイルディスプレイはいくつかありますが、インパクトが大きかったのは13型液晶を採用したレノボ「Yoga Tab 13」。本製品は正確にはAndroidタブレットなのですが、HDMI映像入力端子を搭載しているため、モバイルディスプレイとしても活用できる汎用性の高さが魅力です。
また、DELLが9月に同社初の14インチモバイルディスプレイ「C1422H」をリリースしたのも、ある意味では市場のニーズの高まりを示していると言えるでしょう。こちらは重量590gと軽量なほか、接続はUSB Type-Cケーブルのみとシンプルさが特徴の製品に仕上がっています。
製品選びのポイントはさまざまですが、基本的には画面サイズと解像度で選ぶことになるでしょう。サイズは製品によっておおむね11~17インチ前後とかなり幅広いので、ノートPCのマルチディスプレイ構築用に使うなら13~15インチ、スマホを大画面化するなら11~13インチなど、目的により選び方が変わってきます。
解像度に関してはこだわりがなければフルHDで構わないのですが、たとえばノートPCと組み合わせるのであれば、ノートPCの解像度に合わせるほうがマルチディスプレイ環境の構築はしやすいでしょう。
また、頻繁に持ち運ぶのであれば重量も大事なポイントになります。ディスプレイ単体で、というよりも、ノートPCやスマホと合わせてどれぐらいの重さになるか、といった選び方をするほうがいいかもしれません。もう1点、スマホの大画面化に使う場合はタッチ対応かどうかを気にするとよさそうです。
なお、こうしたモバイルディスプレイのような周辺機器は、それらを接続したり拡張したりできる、さらに新しい周辺機器の登場の呼び水にもなり得ます。そうなると、新たな製品を楽しむのはもちろん、周辺機器を活用した新たなPC環境の構築も可能です。ガジェット好きや現状のPC周りに不満を感じている人にとっては明るい話になりそうです。
【暗い話】落ち込む国内PC需要、今後も厳しい状況は続く?
JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)が発表したPCの国内出荷実績調査によれば、2021年10月時点で、PCの出荷台数・出荷金額はいずれも7ヶ月連続で前年同月を下回ったそうです。2020年比でPCの需要が下がり続けているというわけですが、大きな理由としては2020年のパンデミックによるPC需要増の反動が挙げられます。
2020年4月以降、急速な在宅ワークの推進で、一時的に店舗在庫が品薄になるほどPC需要が急増したのは周知の通りです。加えて、文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」による小中学校へのPC大量配備が2020年度中に実施されたことも、全体の出荷台数を大きく引き上げました。
そうした想定外の事態の影響が、2021年に入ってからの7ヵ月連続の前年割れ、という一見センセーショナルな事態を引き起こした主な要因でしょう。
さらにさかのぼって、2019年度はWindows 7のサポート終了にともなう買い替え需要が高まっていたこともあり、PCは比較的よく売れていました。
ひるがえって2021年の出荷台数は、目立ったトピックもなく年間を通じて低調に推移していた2018年度並みの水準に戻りつつあると言えます。直近ではOSのサポート終了などの大きなトピックもなく、さらにテレワーク需要が高まるといった不測の事態が起きない限り、伸び悩みは続きそうです。
【どちらともいえない話】いきなり登場したWindows 11、現時点の評価は?
マイクロソフトが「Windows 10はWindowsの最後のバージョンになる」というWindows 10リリース当初の宣伝文句を撤回し、2021年6月に突如発表、10月にリリースしたのが「Windows 11」です。2015年以来、実に6年ぶりのバージョンアップとなりました。
OS自体はスナップレイアウトやウィジェット機能の採用、Wordの高精度な音声入力機能など、ハイブリッドワークとリモート学習の生産性を高められるようなデザイン・機能を多く盛り込んでいるのが特徴です。さらに、コラボレーションプラットフォーム「Teams」をOSと統合するなど、従来のWindows 10に比べて、昨今のワークスタイル変革を強く意識したものになっています。
今回もWindows 10からの無償アップグレードが可能なのですが、現時点ではハードウェアの対応要件がやや厳しめである点が障壁となり、アップグレードの機運はそれほど高まっていないのが実情のよう。加えて、Windows 10のサポート期間は2025年までとされているため、それほど焦って更新する必要もなさそうです。
とはいえ、Windows 11を搭載した完成品PCはすでに出荷が始まっているため、今後新規にPCを購入するのであればWindows 11を使用する機会も増えるでしょう。
新OSの登場自体は大きなトピックではあるのですが、直近ではAndroidアプリの実行など、いくつかの機能が実装されていない状況なのもあって、現時点ではメリットもデメリットも評価しにくい、というのが正直なところです。2022年のアップデートに期待しましょう。
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