デジタル
2022/1/24 10:30

【西田宗千佳連載】2022年の注目はAIを軸にした独自半導体の差別化とゲーム機

Vol.110-4

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2021年のテック業界振り返り。IT大手で活用が広がった独自半導体と、オリジナルの半導体を使い続けてきたゲーム機の流れを追う。

↑2021年、MacBook Proとともに登場した独自プロセッサー「M1 Pro」と「M1 Max」

 

2021年は、IT大手による「独自半導体」活用の流れが一気に広がった。Appleのように過去からその路線を突き進んでいたところもあれば、Googleのように新たに参入してくるところもある。12月14日には、OPPOが主にハイエンドスマホ向けのカメラ用独自半導体「MariSilicon X」を開発する、と発表している。

 

こうした流れの示すところはシンプルだ。インテルにしろAMDにしろQualcommにしろ、大手プロセッサーメーカーのソリューションを採用する「だけ」では、ハイエンド製品における差別化が難しくなってきた、と考える企業が増えているということだ。

 

もちろん、大手半導体プラットフォーマーにしてみれば、自社製品の性能が低いと言われたようなところがあるから、面白くない話だろう。同意できない部分もあると思う。

 

ただ、ハイエンドにおいて特徴的な製品を作る場合、他社と同じハードウェアにソフトで差別化をするのも限界がある。

 

特に、単に「高性能」であることが求められづらくなり、AIの能力やカメラの写りといったある種の個性が必要になってくると、主要プラットフォーマーの考えとは異なる発想で進化させたいという意思も出てこようというものだ。

 

そして、そうした企業のほとんどはAI関連技術に独自投資を進めており、より低い消費電力でその知見を有効活用しやすい半導体を求めている。

 

ちなみに、こうした動きはいわゆる半導体不足とはあまり関係がない。なぜなら、独自半導体のほとんどは最先端プロセスで製造されており、それらの製造コントロールは、TSMCやサムスンなどの「製造ラインの確保量」でシンプルに決まってしまい、あまりブレないからだ。

 

では2022年この傾向がどうなるのか? 間違いなく加速する。とはいえ、いきなりたくさんの企業が独自半導体を作ることはない。前述のように、差別化点が主にAIである以上、AIに長けた企業くらいしかやる意味がないからだ。

 

大手のハイエンドでは「独自半導体」がアピールされ、それ以外のところはイメージセンサーや形状など別のところで差別化する流れが続くのではないか、と考えている。

 

ただ、さらにその先となると話は別だ。オープンソースベースのアーキテクチャである「RISC-V」を使う流れは出てくるだろう。とはいえ、当面はスマホ用のメインプロセッサーなどではなく、NASやネットワークコントローラーなどの黒子的半導体になるだろうから、我々の目には見えづらいかもしれないが。

 

オリジナル半導体を使うことをビジネスモデルの核に据えてきた「ゲーム機」は、今後もそのモデルを継続する。2022年中も半導体不足が続くなら、積極的な設計変更によって生産効率を改善し、現行製品のモデルチェンジを前倒ししてくる可能性もある。

 

また、ゲーム向け配信大手「Valve」は、2022年2月に、AMDと組んで作った独自半導体を使ったポータブルゲーム機「Steam Deck」を発売する。399ドルとPCベースのゲーム製品としてはかなり安価で、「独自半導体の大量生産でコストを下げ、利幅も薄めにして配信収益とセットで儲ける」ビジネスモデルであるところが見えてくる。

 

独自半導体を使ったビジネスの成否という意味では、こちらもまた、ちょっと注目しておいてほしい製品だ。

 

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