Vol.111-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2年ぶりに発表されたソニーのEV「VISION-S」。事業化を発表した、技術的な背景を探る。
ソニーがEV市場参入の意思を表明したことは非常に大きな影響を持っている。家電にゲーム機、センサー、放送機器など「映像や音が関わるもの」を軸にしてきた企業が、自動車という「動くもの」を軸として加える、ということだからだ。
同社がEV参入の検討を目的に今春設立する会社は「ソニーモビリティ」という。もちろん、スマートフォンを作っている「ソニーモバイル」とはまた違う会社だ。ソニーグループ・吉田 憲一郎会長 兼 社長CEOは、「ソニーはこれからモビリティの会社になる」と話している。モバイルは「持ち運ぶ」という意味であり、モビリティは「自ら動く」という意味である。自動車はまさに「自ら動く」ものであり、ソニーモビリティという名前にふさわしい。
とはいうものの、ソニーはこれまでも「自ら動く」ものをいくつか作っている。aiboやドローンの「Airpeak」がそうだ。
自動車とはレベルが違う……と思うかもしれない。確かに、質量や速度が違うので、必要な安全性能などは異なってくる。
だが、根っこにあるテクノロジーは近い。昔のものはともかく、現在のaiboにしてもドローンにしても、そしてEVにしても、「ソフトウェアによる移動制御」とそれを支える「AI」が重要だからだ。
たとえば、いまのaiboは自分がいる部屋の地図を作り、それに従って移動するようになっている。そのために使っているのは、背中にある魚眼カメラだ。
aiboの移動速度は時速1kmに満たないので、反応速度はそこまで速くなくていい。だが、これがドローンになると桁が変わる。
ドローンのAirpeakでは、5つの高解像度カメラを搭載し、全方位の状況を監視している。Airpeakの飛行速度は最大で時速90km。レンズやジンバルとセットで3kg近くになる重い一眼カメラをつけて、これだけの速度で安定的に飛行するのなら、周囲を高精度に、ドローン自体が自律的に認識し続ける必要がある。やっていることはaiboの延長線上にあるが、精度・速度はさらに進化している。
そして、EVである「VISION-S」では、Airpeakと同等以上の高い精度が求められる。VISION-Sは最高時速240kmで走り、車重は約2.3トンとされている。これが安全に走るには、現状人間によるドライブが必要である。だが、現在はセンサーを使って安心・安全走行をカバーすることで、ドライバー側の負担を減らすことができるようになってきた。また、限定的な場所、という条件はあるが、5Gの携帯電話回線を使い、東京からオーストリアのサーキット内のVISION-Sを走行させるテストにも成功した。
センサーという、ソニーが製造・技術面で得意な部分に、「移動するための認識・AI技術」を蓄積していき、差別化された製品を作って販売することが、ソニーの狙いなのだ。同じことを「自動車」から自動車メーカーは狙うが、ソニーはそれを「センサー」側から目指すことになる。
では、それでビジネスとしてどう儲けるのか? そこは次回解説していきたい。
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