Vol.112-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが発表した、ゲーム最大手会社の買収。メタバースのための買収という報道もあるが、実際はどうなのかを考察する。
マイクロソフトが約7.8兆円でアクティビジョン・ブリザードを買収した際、同社のプレスリリースの中には、次のような文言が入っていた。
「現在、ゲームはあらゆるプラットフォームを通じて、エンターテインメントのなかで最もダイナミックでエキサイティングなカテゴリーであり、メタバース プラットフォームの発展においても、重要な役割を果たすことになるでしょう」(米マイクロソフトのサティア・ナデラCEO)
この発言もあって、新聞などの報道では「マイクロソフトは8兆円近い金額をメタバースのために投じた」と報じられることもあった。
だが、筆者が見る限り、それはちょっと言い過ぎである。ナデラCEOの発言をよく読むと、「ゲームはメタバースのなかで重要な役割を果たすだろう」としか言っていない。それは確かにその通りであり、いますでに成立していて大きなお金も動いている「メタバース的なサービス」はゲームであるのは疑いない。
また、コメントの後半ではこうも言っている。
「マイクロソフトは、世界最上級のコンテンツ、コミュニティ、クラウドへの投資を強化し、プレイヤーとクリエイターを第一に考え、ゲームが安全かつインクルーシブで、誰もがアクセスできるものになる新時代を切り開こうとしています」
ここを読めば明白だ。マイクロソフトは「コンテンツとコミュニティ」を求めているのである。
コンテンツとはいうまでもなく、ゲームそのもののこと。特に、人気があって規模が巨大な「AAA」と呼ばれるタイトルを作るには、技術だけでなく資金から大量のアーティストをコントロールする部分まで、多様なノウハウが必要になる。マイクロソフトもAAAタイトルの開発チームは持っているが、自社の権利下にある人気作を増やすなら、チームとその運営母体である企業をまとめて手に入れるのが近道だ。
同様に重要なのが、コミュニティだ。現在のゲームは多くがオンラインタイトルになっていて、そのファンがプレイヤー同士として繋がり、コミュニティを形成している。コミュニティの強さは作品の長期的なヒットを後押しする、重要なものだ。ゼロから作品を立ち上げた場合、結局コミュニティもゼロから立ち上げ直しになる。ゲームに続編が多いのはそのためだが、企業目線で見れば、「すでにコミュニティを持っているヒット作品を作れる企業」を買収することは、作品とノウハウとコミュニティを同時に手に入れることでもある。買収リスクはもちろんあるが、成功すれば得られるものも大きい。
メタバースが……と言われるのは、メタバースにとって重要なのが「人が集まること」であるからにほかならない。コミュニティがすでにあるなら、ゲームとコミュニティをフックにメタバースに拡げる「こともできる」。
ただ現状、理想的なメタバースは出来上がっていないし、同じメタバースでも、ゲームとビジネスでは向いている方向も違う。あくまでゲームに向けた施策であり、メタバース文脈で風呂敷を広げすぎるのはミスリードである。
やはりまず、マイクロソフトとしてはあくまでゲーム事業のための買収であり、ちょっとしたリップサービスとしてのメタバース……くらいに考えた方が良さそうだ。
では、本業のゲームではどんな展開が予想されるのか? ソニーや任天堂への影響は? そうした部分は次回解説する。
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