Vol.114-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルが発表した、独自のCPU技術を駆使したMac Studio。製品の登場を支えた技術の秘密は何なのか。
M1 Max以上の高性能CPUはあるか
アップルが3月に発売した「Mac Studio」は、多くの関係者の度肝を抜いた。
アップルはMacの独自半導体への移行を進めているが、残すのはハイエンド系だけになっていた。だから高性能をウリにした製品が出てくるのは予測の範囲内だった。
ただ、アップルがどう「M1 Max」より高性能なプロセッサーを作るのかは、PC業界内でも意見が分かれていた。
アップルのM1シリーズは、スマートフォンであるiPhoneのプロセッサーから派生している。そのため、CPUとGPUを混載し、さらに高速なバスで同じチップの中にメインメモリーまで搭載する構造になっている。これはベーシックなM1から、ハイエンドのM1 Maxまで変わらない。この構造であるから、データのムダな転送を減らし、効率的に扱うことで速度を稼いでいる。
ただ、半導体製造には技術的な限界がある。CPUやGPUを際限なく増やせるなら性能も上げやすいが、ある規模以上になると製造が難しい。実は、M1 Maxは限界に近い規模であり、単純に同じアプローチでさらに規模が大きく、性能が高いプロセッサーを作るのは無理だ、と考えられていた。
プロユースにも耐えうるM1 Ultraの実力
一般的なPCの場合、GPUを外付けにしたり、CPUを複数搭載したりすることで性能向上を図るのが通例だ。だからアップルも、M1シリーズを複数積んだ高性能Macを作るのではと予測されていた。
そして実際、Mac StudioはM1 Maxを2つ搭載したMacになった。ただし、実現の方法は非常に独特なものだ。単純にプロセッサーを2つ搭載するのではなく、最初からM1 Maxに“2つのM1 Maxを高速につなぐ”、“2基つなげても、ソフトから見るとひとつのプロセッサーに見える”機能を搭載しておき、それを使用して、製造の段階で2基のM1 Maxがつながった特別なプロセッサーを作ったのである。アップルはこれを「M1 Ultra」と名付けた。
2021年秋に発表されたとき、M1 Maxは単に高性能なM1だった。だが実は、M1 Ultraを実現する機構が隠されている、野心的なプロセッサーでもあった。そして、そのことはM1 Ultra登場まで秘密とされていた。
筆者も、Mac Studioをアップルから借り受け、性能をテストしてみた。実に速く素晴らしい。M1 Maxの倍の速度で動き、動作音はほとんどしない。M1 Ultra搭載モデルは約50万円という高価な製品だが、Macでなにかを作ってお金を稼ぐプロ向けのPCだから、十分価格に見合うものと言える。
ただ、Mac Studioにはいくつか疑問もある。性能はWindows PCと比較してどうなのか? アップルはMac Proについては後日別途に発表するとしているが、それはMac Studioとどう違うものになるのだろうか? そして、性能向上は今後どのように実現していくのだろうか?
そのような謎については、次回解説していく。
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