はるか昔のハードウェアを、現代の魔改造で蘇らせることもハッキングのロマンです。たとえば初代ゲームボーイで『GTA V』を遊んでみたり、ゲームボーイアドバンスで『トゥームレイダー』を動かす ことを実現した人たちも注目を集めていました。
そして新たに、40年以上前のコンピュータでYouTubeを再生するという、一見不可能か無意味に見えることを成し遂げたハッカーが現れました。
YouTuberのThorbjörn Jemander氏は、コモドール社の「CMD 8296 SK」が名前を変えた「PET 600」なるレアなPCを手に入れたとのこと。このコモドール社は全世界で1200万台以上も売れた8ビットPC「コモドール64」(1982年発売)でよく知られていますが、それに先立つ1977年にPET 2001を発売しています。
PETとは「個人用電子実行機」という意味で、家庭向けのコンピュータを目指したものですが、当時は3500ドルをはるかに超える価格で販売されました。ちなみに任天堂の元社長、故・岩田 聡氏も学生時代にPET 2001を使い込んでおり、同じ系列のチップ(6502)を使ったファミコン開発のスペシャリストになった経緯もあります。
そんなPET 2001を元にしたバリエーションの1つが、今回のPET 600というわけです。最大の特徴は、緑一色しか出せないCRTディスプレイで、わずか80字×25行のテキストだけ表示できること。この歴史の遺物のようなPCを使って、YouTubeの動画を再生しようというわけです。
PET 600は文字しか表示できない上に動作も遅く、ファイル1つをロードして表示するだけで数秒かかることもありました。そのためPET 600だけでYouTubeが動かせる可能性はゼロに近く、Jemander氏も大苦戦することになりました。
まずJemander氏らは、PET 600の背面にある拡張ポートに挿せるカートリッジ「BlixTerm」を作成。この中にはRaspberry Pi Zero 2 Wが入っていて、無線LANでYouTubeに接続してYouTubeの白黒動画(640×200)を読み込み、それをPETが表示できる80×25のASCII文字に変換しています。
そうして生成された動画フレームを、もう1枚のインターフェースカードでPETのビデオメモリに読み込ませています。PET 2001の限られた処理能力がボトルネックになりますが、Jemander氏が最適化することで、とても滑らかな30fps再生を達成できたしだいです。
中味がほぼ45年前のレトロPCでYouTubeを観るのは目にも優しくなく、特に意味があるわけでもありませんが、それを可能にした技術力と情熱には感動を禁じ得ません。
Source:Thorbjörn Jemander(YouTube)
via:Gizmodo(US)