Vol.122-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが自社PCで採用し始めたARM系CPUの話題。今後のCPU進化のロードマップを追う。
前回解説したように、いまのARM版Windows 11搭載製品は、x86系のものに近い使い勝手になっている。だが、x86系に比べてトップパフォーマンスでは劣るため、製品にするとコストパフォーマンスの面で劣る……という事情がある。
Windows用のARM系プロセッサーではQualcommのSnapdragonシリーズのシェアが大きいのだが、同社としてはSnapdragonのCPUパフォーマンスを向上し、こうした課題に対応する必要に迫られている。アップルがAppleシリコン、特にMac向けのM1やM2で評判を高めたように、次世代のSnapdragonでインテルのシェアを食うようなプロセッサーが必要、ということになるわけだ。
そこで現在、Qualcommが開発中なのが「Oryon」と呼ばれるCPUだ。SnapdragonのようなSoCは、CPUにGPU、機械学習用のコアなどを集積して作られる。そのなかでもOryonはCPUコアのブランドで、現在Snapdragonで使われている「Kyro」に変わって使われるようになる。OryonもKyroもARM系CPUで、同じ命令で動くものであることに違いはないのだが、処理の効率などが異なってくると考えられる。
現状、2023年のどこかの段階でOryon搭載のSnapdragonが登場し、スマホ向けとPC向けで、それぞれ大幅な性能向上を目指すと見られている。Oryonを作っているのは、その昔アップルでAppleシリコンのひとつである「Aシリーズ」の開発に携わったチーム。メンバーの幾人か独立して生まれた「Nuvia」という会社をQualcommが買収、現在Oryonが作られている……という流れになっている。
ただ現状、OryonがどういうCPUになるのか、詳しい情報は公開されていない。2023年に詳細が発表され、2024年以降にはOryon搭載の高性能Snapdragonが出てくる、と予想されている状態だ。だから、そのときのSnapdragon搭載Windows PCがどの程度の性能・快適さになるかはわからない。
ひとつ言えるのは、Oryon搭載Snapdragonが出てくるタイミングが、インテルが大幅刷新する「第14世代Core iシリーズ」が登場する時期と重なりそうである……ということだ。
Appleシリコン登場以降、各半導体メーカーには性能向上・性能変化へのプレッシャーが強くなっていた。その結果が明確に出てくるのが、2023年後半から2024年という時期になった、という風に考えてもいいだろう。当然、アップルも黙って見てはいない。M1からM2への進化は小幅なものだったが、2024年をターゲットとすれば、半導体製造技術の進化も見えてくるため、より高性能なプロセッサーを発表してくることが予想される。
そう考えると、2023年からの2年間くらいは、久々にPC向けプロセッサーが大きく進化し、ノートPCで大きな競争が起きるタイミングになる……ということになりそうだ。だから、2023年前半にPCを買うのはちょっともったいない時期でもありそうなので、特に省電力性を重視したノートPCを買おうと考えている人は、買い替えサイクルや価格などと相談しながら選ぶようにしてほしい。
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