Vol.124-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはAppleの新たな「M2」プロセッサーの話題。飛躍的な進化が難しいプロセッサーで同社が用いた手法を探る。
プロセッサーの進化にあるGPU向上との相乗効果
アップルは2月3日から、新しいMacBook ProとMac mini、そして第2世代HomePodの発売を開始した。アップルの新製品登場サイクルとして、2月の発売は少し珍しい。例年だと3月と4月が多く、しかも教育市場向けが中心になりやすい。これからアップルが別の製品を発表する可能性もあるが、とりあえず、アップル“2023年の1手目”は、どちらかと言えば「高性能指向」だったと言えるだろう。
HomePodを除く2つの製品に共通しているのは、プロセッサーが進化したことだ。2020年にデビューした、初代Mac向けApple シリコンである「M1」シリーズから、22年に登場した新世代の「M2」シリーズに変わったのだ。安価なMac miniは「M2」になり、MacBook Proを含むハイエンドモデルは「M2 Pro」「M2 Max」になった。
製品の魅力を高めるため、プロセッサーの性能が上がっていくのは当然の流れだ。一方で、プロセッサーの性能は簡単には上がらない。特に20年から22年までについては、半導体製造技術が踊り場を迎えた時期にあたり、大幅な性能アップを伴う進化は24年後半に来る……と予測されていた。
そのため、M2やさらにハイエンドモデルであるM2 Proなどは、性能向上が小幅になるのでは、と言われる時期もあった。
だが実際に登場してみると、M2シリーズを搭載した製品は十分に性能アップしていた。
ただし、性能向上には少し秘密がある。CPU性能よりも、GPU性能の方がより大きく向上していたのだ。
GPUの性能を少し上げ、そのうえで数を増やす
プロセッサーの性能を上げるにはいくつかの方法論がある。もっともシンプルなのは、CPUコアやGPUコア、ひとつひとつの処理能力を上げることだ。同じ半導体製造技術を使っていても、こうすれば性能はより上がる。ただし、劇的に高性能なコアを作るのは難しいので、少しずつ改善していくことが多い。
次の方法は、プロセッサーを構成するCPUコアやGPUコアの数を増やすことだ。
一般論として、半導体製造技術が上がると、似た面積・コストの中に詰め込めるトランジスタの数が増えるので、コア数を増やすのは容易になる。しかし、そうでない場合にも、プロセッサーの面積を大きくすることでコア数は増やせる。そのぶんコストと消費電力が上がりやすい、という欠点はある。
アップルがM2シリーズで採ったのは、“少しコアの性能を改善し、その上でコア数を増やす”ことだ。特にGPUコアを増やすことでGPU性能を前の世代に対し3割以上向上させている。ProやMaxでは、ゲームやリアルタイムCG制作でGPUの重要度が高まっているので、性能向上の方向性としてはわかりやすい。プロセッサー単位でのコストは上がっているわけだが、製造技術がこなれてきたことで、そのぶんをカバーできている可能性が高い。
ではアップルは、今後どのようにApple シリコンを進化させるのか? またHomePodが久しぶりに登場したことにどんな意味があるのか? その辺は次回以降で解説していく。
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