デジタル
2023/4/4 18:00

【西田宗千佳連載】マイクロソフトはAI検索に未来を賭ける。その理由は?

Vol.125-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが発表した検索エンジン「Bing」の進化。これまでの手法を大きく変えるチャット検索の可能性は何か。

↑マイクロソフト「Bing」(無料)。新しいBingはChatGPTよりも強力で、検索専用にカスタマイズされた次世代のOpenAIによる大規模言語モデルで稼働する。単なる答えだけでなく、メールの下書き、旅行の行程表の作成、トリビア用のクイズ作成など、自分に代わってコンテンツを作成する機能も有している

 

AIを検索に用いて素早く的確な答えを導く

AIを使った検索サービスが、急速に注目を集めている。

 

きっかけは、2022年11月に公開された「ChatGPT」だろう。チャットで語りかければあらゆる質問に“回答してくれる”ように見えたことから、ネット検索代わりに使えるのでは……と考える人が出始めていた。

 

だが“ネット検索へのチャット導入”を本当の意味でスタートさせたのは、マイクロソフトである。2月7日に発表した「新しいBing」にチャットでの検索を組み込んだのだ。

 

ChatGPTはあくまで“文章による指示から、文章やそれに付随するデータを生成する”生成AIであって、検索技術ではない。自然で多様な文章を作るため、ネットから大量の文章・データを収集して学習した結果、いろいろな質問に答えられるので“検索サービスっぽく見える”だけだ。情報の正しさを担保するのは人間の仕事で、ChatGPT側は基本的に関与しない。また、2021年以降の情報は学習対象ではないため、最新の情報は出てこない。

 

それに対し、マイクロソフトが開発したBingのチャット検索は「AIを検索に使う」ことが目的のサービスだ。最新の情報が出てくるよう常にネットから情報を集めているし、チャットとして出てきた答えが正しいかを人間が判断しやすいよう、答えの根拠となったWebサイトが書籍の「索引」のような形で表示されるようになっている。

 

新しいBingは、ChatGPTと同じOpenAIが開発したAI技術「GPT」をベースにしているものの、そこにマイクロソフトが“検索に使うため”に開発した「プロメテウス」という技術を組み合わせている。

 

チャット検索こそスマホに最適な技術

チャットで検索できるようになると、ネット検索の姿は大きく変わる。

 

調べたい内容を思いついたまま入力すれば良く、それを“検索で引っかかりそうな単語に分解する”必要はなくなる。また、答え(だと思われるもの)は文章にまとまって出てくるので、リンク先の記事を読んで、自分で内容をまとめ直す必要も減る。

 

すなわち検索と、そこから答えを得るための手間が劇的に減るわけで、本質は“検索ユーザーインターフェースの変化”そのものだ。

 

この変化が特に影響を与えそうなのが「スマホ」である。スマホからのネット検索は、検索全体の3分の2を占めると言われている。しかし、PCほど文字入力がラクではないし、狭い画面で大量の情報を見るのも面倒だ。音声認識や音声合成が進化したいま、チャット検索はスマホに最適な技術に見える。

 

ゆえにマイクロソフトは、すぐにチャット検索をスマホ対応とした。米マイクロソフトでBing全体を指揮するユスフ・メディ氏は筆者の取材にこう答えている。「弊社はスマホでは存在感を示せていない。チャット検索は市場を切り開くチャンスになる」。

 

それほどチャット検索は、マイクロソフトにとっては戦略的な切り札だったのである。ただし、チャット検索には正確性など、多数の課題がある。その点はどうなっているのか? Googleなど他社はどう対抗するのか? その点は次回以降で解説する。

 

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