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2015/10/16 1:13

【西田宗千佳連載】ソニーの「若手」がクラウドファンディングでつかむ経験

 

 

 

「週刊GetNavi」Vol.35-4

Vol.35_R

 

ソニーが「First Flight」で行うクラウドファンディングの多くには、共通の特徴がある。それは、プロジェクトメンバーが若いということだ。

 

学習リモコンの「HUIS」の企画メンバーは、入社3年目の社員数人が中核。スマートウオッチの「wena wrist」に至っては入社2年目のスタッフ。企画スタート時にはまだ入社1年目だった。

 

ソニーは現在、社内で「Seed Acceleration Program(SAP)」というプロジェクトを展開している。これは、社内から企画を公募し、新しいビジネスの種(=Seed)を生み出すことを目的としたものだ。公募時に、入社年次や部署の制約はなく、「これ」と思う企画さえあれば、社内に向けてプレゼンテーションできる。企画審査は厳しいものであるようで、常に採択されるとは限らない。だが、企画の内容さえ良ければ、入社1年目の新入社員でも構わない。

 

ここで「年齢を問わない」ことには、もちろん狙いがある。ソニー・平井一夫社長は、筆者に狙いを次のように説明している。

 

「大企業の中では、事業を立ち上げる経験は、年齢を重ねないとできない。最初は自分の専門分野だけしか担当しない。だが、今後のためにも、若いうちからビジネスを立ち上げる経験をして欲しい、と思っている。SAPでは、小さい事業だが、一から事業を立ち上げる経験ができる。仮に成功しなくても、その体験は今後のためになる。もっとチャレンジして欲しい」

 

ソニーのような企業は「新しいもの」を生み出すことを市場から期待されている。だが、従来の枠組みでは、経験を積んだ企画者のほうが有利だろう。若い発想を生かすこと、積極的に新しいビジネスを生み出すことで、新しいものが世に出るチャンスが生まれる。SAPからFirstFlightを使ったクラウドファンディングを行っている理由は、若いうちからビジネス全体を見通す経験を得る機会を作り、小規模のチャレンジからのスタートで将来的により大きなビジネスができるようになって欲しい、ということにあるのだ。

 

一方、そこで「クラウドファンディング」を使う裏には、少々世知辛い事情も見えてくる。ソニーは経営再建の途上にある。無駄な予算を使う余裕はない。ソニーに資金的な余裕があるなら、クラウドファンディングを使わず、自前の資金でやってもいいはずだ。言葉は悪いが、「自社の社員育成をクラウドファンディングでやっている」ようなところがある。もちろん実際には、クラウドファンディングで新規ビジネスを立ち上げる、という経験をさせたい、ということの方が大きく、育成資金を出し渋るつもりではないだろう。だが、「資金調達」手段としてのクラウドファンディングの存在は、ソニーにとってありがたいことであったのは事実だろう。

 

  • Vol.36-1は「ゲットナビ」12月号(10月24日発売)に掲載予定です。

 

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