Vol.127-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはGoogleが発売を発表した「Pixel 7a」。Googleはひとつのプロセッサーを複数の製品に起用するが、そこには半導体に関する戦略がある。
現在Googleが販売している「Pixelシリーズ」には明確な共通点がある。それは、使っているプロセッサーがまったく同じである、という点だ。
現在使っているのは「Google Tensor G2」。CPUコア数・GPUコア数も、動作クロックも、メモリー容量もまったく同じものが、Pixel 7からPixel Fold、Tabletにまで使われている。
GoogleのPixel向けプロセッサーである「Google Tensor」シリーズは、2021年発売の「Pixel 6」から採用されたもので、現在は第二世代。このままいけば、秋の新製品では第三世代が登場することになるだろう。
GoogleはAndroidに関して、サムスンとのパートナーシップを強化している。Google Tensorの開発もサムスンが担当しており、サムスンの自社プロセッサー「Exynos」をベースにしているのでは……と噂されることは多い。
多分それは事実だろう。だが、ExynosとGoogle Tensorはかなり考え方が異なる。Exynosは製品ごとにかなり性能が異なり、多数のバリエーションで構成されている。しかしGoogleはあえてCPU・GPUの性能を上げようとはしていない。その代わりに、プロセッサーの中に機械学習向けの機構を多めに搭載して、画像認識や音声認識、カメラの画質アップなどに使っている。さらに、スマホなどの価格ごとにプロセッサーを使い分けず、とにかく1種類のものを多数の製品に使うことでコスト効率を上げる、という戦略をとっている。
だからPixel 7「a」は非常にお買い得なスマホになるわけだ。ただし、性能面でほかのハイエンドに見劣りする部分があるのも否めない。
とはいえ、Googleとしてはそれで良いのだろう。プロセッサーの性能は重要だが、いまのスマホでは、単純に性能の魅力で差別化をするのも難しい。だからみなカメラ性能=イメージセンサーというプロセッサー以外の部分で差別化できるところに注目するのだ。そして、カメラ画質などには、Google Tensorの性能は生かしやすい。ほかのプロセッサーでできないことではないが、Googleとしては「特定のプロセッサーにターゲットを絞って開発できる」のが強みとなる。だから、Androidのおもしろそうな機能が「まずはPixelから」という話になるのだ。そのあと他社製品にも対応はできるが、優先順位がちょっと違う。
一方で、Googleお得意の「AIで差別化」が今後も盤石なのか……というと、けっこう難しい部分がある。Google TensorでAI処理を効率化することはできるが、それは音声や画像の処理が中心。最近話題になることの多い「ジェネレーティブAI」の高速化には役立ちづらい。現状、ジェネレーティブAIは結局クラウドにある高性能なサーバーで処理せざるを得ず、スマホやタブレットの差別化要因になっていない。
この辺は仕方がない部分もある。半導体の設計・開発には2年以上の長い時間が必要になる。ジェネレーティブAIの重要性が認識されてからはまだ1年くらいしか経過していない。いかに技術を先読みしたとしても、去年・今年に出るような製品に使えるプロセッサーを最適化するのは無理があるのだ。
だからおそらく、Googleはまだ今年・来年くらいは、いまのGoogle Tensorの延長線上で攻めるだろう。すなわち「単純性能でなく機械学習向けに改良、でもジェネレーティブAIまでは対応できない」「CPU・GPU性能でトップは狙わない」「コスパの良さを武器に、多数の製品に同じ性能のものを搭載する」という三要素だ。
そういう目線で見ると、今春に出た3商品の見え方も、多少違ってくるのではないだろうか。
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