Vol.128-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはASUSから発売された小型ゲーミングPC「ROG Ally」。高性能ゲーミングPCとは異なる方向性を見出す同社の狙いは何か。
まだニッチな存在だが売れる可能性はアリ
ASUSは6月中旬に、小型ゲーミングPC「ROG Ally」を発売した。7型ディスプレイの左右にコントローラーをつけた、携帯ゲーム機的なデザインの製品だ。
この種の機器は数年前からいくつか出ていた。なかでも目立ったのは、Valveの「Steam Deck」だろう。Linuxベースの独自OSを使い、「PC向けのゲームをさまざまな場所で遊ぶ」ことを想定した機器である。ベースはどちらもAMD製のPSoCで、PCと同じくx86系アーキテクチャである。
こうしたゲーム機が出てくる背景にあるのは、“PCゲームのプレイヤーが増えたこと”と“ディスプレイ解像度が低ければ、外付けGPUでなくてもそれなりにゲームを遊べる性能になってきた”ことにある。
とはいえ、一般的な携帯ゲーム機に比べればかなり大きい。Nintendo Switchも過去の携帯ゲーム機に比べればかなり大柄だが、PCベースのゲーム機はそれよりもっと大きい。現状はあきらかにニッチな存在で、“そこまで大量に売れはしないだろう”という見方をする業界関係者が多かった。
だが、ASUSのような大手が価格的にもかなり手ごろな製品を出してきたことで、少し見方も変化してきたところがある。たしかにニッチな市場ではあるのだが、思ったよりも売れるのでは……という考え方だ。
デスクの前に縛られず多様化するプレイ環境
ゲーミングPCは高性能だ。だが、そのほとんどがデスクトップ型であり、ノート型でも大柄なモノが多い。ゲームをプレイしたい時間は増えているものの、ゲーミングPCがある机の前にいる時間は限られている。リビングやベッドでゲームの続きをしたいときもあるだろう。
高性能なゲーミングPCに比べて安価な価格で手に入るなら、小型なモノを買ってもいい、と考えている人が一定数いて、新しい機器として耳目を集められるなら勝算アリ、と見ているわけだ。ただどちらにしても、「日本向け」のような狭い市場では成立しづらく、“全世界に同じものを売る”前提で開発しないと厳しい世界ではある。
この種の小型ゲーミングPCは、別にゲームだけに使えるわけではない。外付けキーボードを使えば仕事などにも使える。メモリーやストレージが大きめで、ビジネス用のノートPCより動作速度が速くなる傾向もあるので、そのあたりを考えて買ってみる、というのもアリだとは思う。筆者も先日TECHONEの「ONE XPLAYER2」を購入したが、“高性能なWindowsタブレット”としても重宝している。
ゲームをするシーンを広げるという意味では、ゲーミングPC以外でも興味深い動きはある。
ゲーム機やゲーミングPCで動くゲームを、家庭内LAN経由でスマホなどの上で動かす「リモートプレイ」のニーズも上がっている。スマホと組み合わせて使うコントローラーも増えてきたし、ソニーは秋に「プロジェクトQ」というリモートプレイ専用デバイスも発売する。
こうした動きを支えているものは何か? 小さな機器でのゲームプレイ体験はどうなっているのか? そうした部分については、次回以降で解説していく。
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