Vol.131-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはKDDIとスペースXが発表した、衛星を利用したスマホの通信サービス。衛星でスマホと通信する仕組みを紐解いていく。
KDDI×スペースX
衛星とスマホの直接通信サービス
利用料金未定
KDDIはスペースXと組み、スターリンクの衛星と携帯電話の間で直接通信し、地上にある携帯電話基地局とつながらないような場所からも通信できるようにする。サービスの開始は2024年からなのだが、これはどのような仕組みで実現されているのだろうか?
衛星側の仕組みはともかく、考え方はシンプル。単純に、空に携帯電話の基地局があると考えればいいのだ。
山岳地帯や海の上に基地局を作るのは、技術的にもコスト的にも難題が多い。では、衛星を基地局にすればどうか? これはこれで技術的難題はもちろん山のようにあるのだが、少なくともすでに、「衛星携帯電話」や「スターリンク」はサービスを展開できているので、地上と衛星を結んでの通信自体は可能である。携帯電話から衛星につなぎ、衛星からさらに携帯電話網への接続ができれば、サービス自体は提供可能になる。
スターリンクを使ったサービスと衛星携帯電話の違いは、衛星の種類にある。
衛星携帯電話の多くは「静止衛星」を使っている。地上から見ると「常に同じ位置にあるように見える」静止衛星は、上空約3万6000kmの高さを回る。常に同じような位置にあるため、通信を安定させやすい。それでも世界じゅうをカバーするには数機の衛星が必要になるが、衛星利用のコストは抑えやすい。一方、遠いところにある衛星と通信するには巨大なアンテナが必要で、大量の人が同時に使うのも難しい。だから利用料金も高価になり、「普通の携帯電話」で使うことも難しい。
それに対しスターリンクは、「低軌道衛星」なので、上空約5500kmのところを飛んでいる。地球を90分から120分で一周するため、1機でカバーできるエリアは小さい。そのため、現時点でも5000機以上、最終的には1万2000機以上の衛星を飛ばし、エリアのカバーを広げるところが違う。
地上との距離が近くなるので静止衛星を使ったものよりも通信はしやすくなるが、それでも本来は、大きなアンテナを固定して使わないと、数十Mbpsを超える高速通信は難しい。スターリンクの基本サービスで使っているのは、一片が60cmくらいある専用アンテナ。衛星は数分で視界を横切ってしまうので、複数の衛星を利用する工夫も必要だ。
ではどうやって携帯電話とつなぐのか? 方法は2つある。
1つ目は、使うデータ量を小さなものにすること。2024年のサービス開始時、KDDIのサービスは「テキストメッセージ」に限定される。通話や一般的なインターネット利用はできない。携帯電話の小さなアンテナで確実に送受信するには、確実に通信できる容量に制限する必要があるからだ。
2つ目は、衛星自体の持っているアンテナを大きくすること。スターリンクは使う衛星のバージョンアップを進めており、次期衛星である「V2」がメインになると、衛星のアンテナ面積が3倍に広がり、効率的なデータ通信が可能になる。その結果として、スマートフォンとの間で「最大数Mbps」くらいの通信が可能になる……とされている。数Mbpsだと現在の4G・5Gに比べ数十分の一の速度ではあるのだが、それでも、山の中や海の上など、地上基地局まで電波が届かないところで使えるならプラスである。
楽天モバイルがASTスペースモバイルと組んで進めている計画でも、ASTスペースモバイルが大きなアンテナを積んだ衛星を打ち上げ、それを介して通信することになっている。
課題は、スターリンクV2にしろASTスペースモバイルの衛星にしろ、大量に打ち上がって実際に使えるようになるまで、まだ年単位での時間がかかる、ということだ。その性質上、地上基地局が一切不要になることはないし、日常的に衛星通信を使うこともなさそうだ。あくまで(良い場合でも悪い場合でも)“非日常のためのもの”ということができるだろう。
非日常のための通信という意味では、衛星を使った「緊急通報」も話題になる。これも、携帯電話と衛星をつないだエリアカバーに近いところがあるサービスではある。
その特質はどんなもので、KDDIや楽天モバイルの計画とどこが違うのか? そこは次回解説する。
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