Vol.131-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはKDDIとスペースXが発表した、衛星を利用したスマホの通信サービス。アップルが提供している、iPhoneからの緊急通報について解説する。
KDDI×スペースX
衛星とスマホの直接通信サービス
利用料金未定
携帯電話と衛星が通信する最大の利点は、地上の基地局ではカバーできないような場所でも通信が可能になる、ということだ。いわゆる「衛星携帯電話」が登山や海運などの現場で使われるのは、一般的な携帯電話サービスのエリア外で安定的に使えるからだ。
現在KDDI+スペースXや、楽天モバイル+ASTスペースモバイル、ソフトバンク+OneWebが展開を予定しているサービスは、普通の携帯電話を衛星と接続するもの。環境がそろえば、衛星携帯電話でしかできなかったことが、普通のスマートフォンからできるようになる。
ただしそれにはまだ準備の時間が必要。小さなアンテナだけが搭載された普通のスマートフォン“だけ”では、高速な通信はできない。新しい、アンテナの大きな衛星とセットで使う必要がある。
衛星との通信は「非日常」のものだ。前向きに捉えれば、「あまり人が行かないような場所」からの体験をシェアするために使うのだろうが、おそらくより重要度が高いのは、多くの人があまり求めていない体験、すなわち“非常時の緊急対応”に使うことだろう。圏外がなくなれば、通信が寸断された地域や山岳地帯で助けを求められる可能性が高まる。
衛星から緊急通報をする機能は、すでにアップルやファーウェイが自社スマートフォンに搭載している。クアルコムも「Snapdragon Satellite」の名前で技術開発を行なっているので、遠からず多くのスマホに機能が搭載されることになるだろう。
まだ日本では使えないが、アップルの場合、アメリカやカナダなどの広大な国土のある地域で、携帯電話網だけに頼らず緊急通報するためのものとして、日常的に利用されているという。先日起きたハワイ・マウイ島の噴火でも、救助のためにこのシステムが使われている。
仕組みとしては、KDDI+スペースXのものに似ている。地球を周回する低軌道衛星と通信をし、そこから緊急通報へと情報を送り、連絡を試みる。スターリンクとは使う衛星は違うものだし、将来的な高速通信も想定はしていない。あくまで「SMSなどのテキストメッセージで、最低限かつ確実な緊急通報を目指すもの」だ。
アップルはGlobalstarという衛星通信の会社と提携してサービスを提供するのだが、この会社はスペースXのように何千機も衛星を打ち上げているわけではなく、24機しかない。その関係で、転送できるデータ量はKDDI+スペースXよりさらに小さく、テキストメッセージに限定した使い方がなされている。
とはいえ、iPhoneを持ってさえいれば携帯電話事業者を問わず利用できるわけで、緊急通報としての価値は高い。今年からは自動車のロードサービスも呼べるようになった。
ただし、繰り返しになるが、現状この仕組みは日本では使えない。緊急通報のあり方が他国とは異なるからだ。
アップルのシステムは、衛星を受信してさらに緊急通報を適切な地域の機関(警察や山岳救助隊など)に送る仕組みを持っている。その運営費用はアップルが負担しており、そのため「新しいiPhoneを買ってから2年間」と、サービス期間が決まっている。
緊急通報を必要な機関へと引き継ぐ仕組みをそれぞれの国向けに作る必要があり、さらに、法的に「SMSなどでの緊急通報を確認し、受け付ける」仕組みも必要になる。日本ではまだその準備ができておらず、法整備も必要だ。
ただし、総務省はこれらの緊急通報に関しても導入の方向で検討を進めており、将来的には使えるようになるだろう。開始まで、2年も3年もかかることはなかろう、と筆者は予測している。
では、緊急通報の仕組みも含め、今後の“スマホと衛星”の関係はどうなるのか? 次回はその点を解説する。
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