Vol.131-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはKDDIとスペースXが発表した、衛星を利用したスマホの通信サービス。衛星通信は将来、ユーザーにどうやって浸透していくのかを解説する。
KDDI×スペースX
衛星とスマホの直接通信サービス
利用料金未定
衛星とスマートフォンをつなぐにはいくつかの方法がある。
最もシンプルなのは、すでにスマホが使っている周波数帯の電波を使うことだ。KDDI+スペースXのシステムにしろ、楽天モバイル+ASTスペースモバイルのシステムにしろ、導入しているのはこの形。おそらくは1.7GHz帯の周波数を使う。どのスマホも対応済みなので、ハードウェアの変更(すなわちスマホの買い替え)は不要だ。iPhoneの衛星による緊急通報も、同じくスマホがすでに搭載している2.4GHz帯の周波数を使う。
スマホによる衛星での通信は当面、日常的に使うものではない。そうすると、スマホ側に特別な仕組みを用意するのはナンセンスな話になる。スマホ内蔵のアンテナで衛星とスムーズな通信をするのは難しいのだが、そこはいろいろと工夫をすることで対応する。
アップルのように緊急通信を行なうものは、できるだけデータ量を減らして安定的に衛星を追いかける仕組みをOS側で用意する。KDDI+スペースXのサービスなどは、当面はデータ量の小さなテキストメッセージだけの対応となるが、アンテナが大きく、スマホとの通信がしやすい衛星に置き換えていくことで、徐々に「通話対応」「通信速度向上」などを実現していくことになる。
では、最終的に地上に基地局は不要になり、衛星で通信することになるのだろうか?
これはありえない。
スペースXはスターリンク衛星を、現在の5000機から1万2000機にまで増やす計画だし、ASTスペースモバイルに加え、OneWebやAmazonのProject Kuiperなど、多数の「低軌道通信衛星サービス」が生まれつつある。いつ空を見上げても大量の通信衛星が飛んでいて、3Gや4G並の通信速度が使える時代はすぐに来るだろう。衛星同士は光通信でつながり、より低コスト・高速度での通信が可能になっていく。
だがひとつの本質として、地上に基地局を建てるのは、衛星を飛ばすよりずっと低コストで効率がいいのも間違いない。都市部や住宅地では、いままで通り地上の基地局と通信することになるだろう。
ただ、これまでは山間部に置かれていた基地局が減っていき、島嶼部への通信はスターリンクのような衛星が受け持つ、という可能性は高い。アメリカやカナダのように広大な国土を持つ国の場合、インフラ全体のうち、地上局がカバーする範囲の割合は低くなっていくだろう。
だが、狭い日本はそうではない。一方、現在は通信可能エリアに入っていない、人口が少ない山間部も、衛星を使えばエリア化できる。大規模な災害に襲われ、一時的に地上の通信網が使えなくなった場合にも、衛星通信は役に立つだろう。
そのような形で、インフラが明確に棲み分けていくことになり、結果的に「いつでも通信が可能になる」というのが、今後のシナリオだと思われる。
その過程では、「緊急通報ができるスマホ」「衛星に対応した携帯電話事業者」は、十分な差別化要素であるのは間違いない。KDDIやアップルが狙っているのはそういう部分なのだ。
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