デジタル
2023/11/16 18:00

【西田宗千佳連載】Meta Quest 3がMRで本気を出すのはいつなのか?

Vol.132-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはMetaが発売を開始したVRデバイス「Quest 3」。発売当初、Mixed Realityの注目機能がない理由と、本気を出してユーザーに提供する時期はどれくらいなのかを探る。

 

Meta

Quest 3

実売価格7万4800円〜

↑Quest 2よりも処理速度が大幅に向上したが、それ以上に進化したのがデュアルRGBカメラと奥行きセンサー(デプスプロジェクター)による高度な Mixed Reality(MR)表現。高度な操作が可能なコントローラーも付属する

 

Metaの「Meta Quest」シリーズの特徴として“ソフトウェアアップデートが頻繁である”という点が挙げられる。しかも、アップデートのほとんどは機能アップであり、セキュリティアップデートなどではない。そのため、ハードウェアの出荷時と1年後、2年後では、機器の機能や使い勝手が大きく変わってしまう。

 

このような「ソフトで進化するハード」は、過去から存在した。古くはPlayStation 3あたりがそうだし、いまのスマートフォンやPCも、OSのアップグレードで機能が変わる。

 

ただ、いま一番「劇的なアップグレードが立て続けに出てくるハード」と言えば、やっぱりMeta Quest 3ということになるだろう。MetaのCTO(最高技術責任者)であるアンドリュー・ボスワース氏によれば、すでに「発売から30日・60日・90日・120日で行なうアップデートの内容は決まっている。どれも機能アップ」とのことなので、期待して良い。

 

特に注目して欲しいのが、「発売120日後」以降のアップデートとして、Mixed Reality機能の大幅な拡張も用意されている点だ。

 

このアップデートでは「オーグメント」という機能が追加される。オーグメントとは、簡単に言えば「現実の空間に、ウインドウや3Dオブジェクトを好きに配置する」もの。壁に音楽アプリや写真を貼っておいたり、棚の上に現実にはない3Dの物体を置いておいたり……といったことが可能になる。

 

MRは「周囲が見える」機能だと思われているが、本当はそうではない。現実の空間にコンピューターが生成した画像やウインドウ、オブジェクトなどを配置し「現実とコンピューターの世界を混ぜる」ものだ。

 

こうした要素は、マイクロソフトの「HoloLens」が実現していたもので、2024年にアップルが発売する「Vision Pro」にも搭載されている。ヘッドセットをかぶったまま「現実とコンピューターの世界が混ざった世界」で暮らしたり仕事をしたりするには必須の要素、といってもいい。

 

Meta Quest 3は発売時にそんな必須要素を搭載していないのだが、2024年1月から2月にかけてオーグメントを搭載するアップデートが実行されると、また状況が変わるだろう。

 

ではなぜMetaは、そんな必須機能を搭載しないで出荷したのだろうか? 理由は「動作検証が大変だから」だそうだ。

 

MRは利用者の環境によって精度が変わる。Meta Quest 3は、Metaにとっては初めての「高機能なMRが搭載された機器」なので、家庭での利用状況はわからない。そこでまずMeta Quest 3を出荷し、一般家庭でどう使われたかを検証してからオーグメントをチューニングして搭載したかった……ということのようだ。

 

そして、来年春までには、アップルがVision Proをアメリカで出荷することになる。いよいよ、両者が同じ市場で激突するわけだが、Metaとしてもそれまでにオーグメントを搭載し、「MR機器としてアップルと対抗できる状況」にしておきたいのではないか、とは考えてしまう。どちらにしろ、来年になるとMeta Quest 3は大きく変わることになるだろう。

 

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