「週刊GetNavi」Vol.49-3
マイクロソフトがSurfaceを作る上で、MacBook Proをベンチマークとしている。その辺は前回説明した。Surfaceを安売り競争の領域に置きたくないマイクロソフトとしては、単価が高く、ユーザーが指名買いするMacBook Proに倣うのは当然の策とも言える。
一方で、MacBook Proが高単価で売れていく理由は、品質だけにあったわけではない。買う人々が「クリエイター」が多かった、という事情が大きい。絵を描く人、写真を撮影する人、デザインをする人は、いまだMacを愛用する人が多い。そして、彼らはMacBook Proを選ぶ傾向がある。また、特にウェブ開発者は、自分の開発機材として、OSの親和性がWindowsよりmacOSの方が良いため、MacBook Proを選ぶ。技術系のカンファレンスでは、人々が使っているのがほとんど銀色のMacBook Proである、という風景は珍しいものではない。
マイクロソフトとしては、こういう「高価でも選んで買ってくれる層」は欲しいところでもある。だからこそ、Surfaceは「アーティスト」を強く意識している。
アーティスト向けの製品としてMacBook Proを見たとき、弱点は明白だった。ペンとタッチは「外付け」である、ということだ。コンピュータにおけるペンは、現状、すべての人が必要としている状況にない。だが、絵を描くのはもちろん、アイデアを練ったり書類に書き込みをしたりと、「考えながら何かを作る」シーンでは有効な道具だ。Appleはそれらについては、より特化した作りのiPadでカバーする考えであり、MacBook Proはシンプルな製品だった。
そこでマイクロソフトは、差別化の意味からタッチとペンをWindowsに積極的に取り込み、自らのハードウエアであるSurfaceでは差別化のために使う、というアプローチを採った。PCにおけるペンとタッチを使ったハードウエアの形は、少なくとも、マイクロソフトがその方針を明らかにした2012年頃は定まっていなかった。だが、Surfaceでその姿を率先して示すことで、少なくともSurfaceはブランド価値を高めることができたし、ペンやタッチを求める人の目をMacからWindows PCに移すことにも成功した。
結果的に、Appleも「タッチでの操作性向上を典型的なPCに取り込む」という命題に取り組まざるを得なくなった。その結果が、新しいMacBook Proへの「Touch Bar」搭載だ。Touch Barは画面タッチとは異なり、「キーボードショートカットに類するものを拡張し、キーボードを中心としたPCの使い勝手をあげる」というアプローチである。Appleとしては、「ペンへの進化はiOS」という自社方針は変えていない、ということなのだろうが、MacBook Proが「シンプルなノート型」ではいられない、という現状認識があり、Touch Barの搭載に至ったものと推察できる。ある意味、マイクロソフトはAppleを追い詰めることに成功したのだ。
だが、市場を冷静に分析すると、マイクロソフトの「タッチ&ペン」路線も、完全な成功とは言い難い。iPadなどタブレットの売り上げは下がっているものの、PCについても、「タッチ&ペン」で売れ行きが大幅に回復したわけではないからだ。
タッチとペンはいまどのような状況にあるのか? その辺は次回のVol.49-4で解説することとしよう。
●Vol.49-4は12月15日(木)ごろ公開予定です。
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