Vol.136-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは最近増加中の“耳をふさがないイヤホン”。生成AIの進化によってヘッドホンの役割はどう変わっていきそうかをうらなう。
今月の注目アイテム
HUAWEI
FreeClip
実売価格2万7800円
ヘッドホンの価値を高めるものといえば、いまでも本流は「音質」だ。とはいえ、ヘッドホンはすでに音楽だけを聞くものではない。スマホやPCなどと人間をつなぐ重要なインターフェースだ。20年前ならともかく、いまや通話をするのにヘッドホンやイヤホンを使う人は珍しくない。
AIが登場し、コンピューターが人間に近い声や文章を生成するようになってきた。人間の代わりに会話してくれる……というところまではいかないが、生成AIの進化を考えれば、今年じゅうには「いままでよりもずっと便利」な機能も現れる可能性がある。
そうなるとヘッドホンの扱いは変わる。現在のヘッドホンは「用事があるときにつけるもの」だったが、もしスマホやPCと連携してAIを活用するようになると、「いつでもつけている」ものに変わる可能性もある。
そうなると、インイヤー式のように耳に負担をかけるものや、オーバーヘッド式のように大きく邪魔なものは避けられるのかもしれない。耳たぶにつけるイヤーカフ方式や、耳にかけるオープン型、メガネのツルにスピーカーを仕込んだスマートグラスなどは、“より自然に、つけていることを忘れるような快適さ”を売りにしたデバイスになるかもしれない。
そのための用途開発は重要である。だが一方で、現在も“みんなが使いたくなる要素”について、明確な答えが出ているわけではない。だから、AIの技術が進化するだけで「つけっぱなしのヘッドホン」が主流になると考えるのは難しい。
だが、こうしたデバイスの定着は「スマホ依存」を軽いものにしていく可能性は高い。常にスマホを見てしまうのは、いつメールやメッセンジャーの返事がくるかわからないからでもある。必要なときにはすぐに音声で知らせてくれて、情報が欲しいときでも「画面を見る」のではなく「声で聞く」パターンでも使い勝手が落ちない……という形が実現できるとすると、スマホの画面を見るタイミングは少なくなる可能性がある。
スマホが不要になるわけではないが、画面を見なければいけないタイミングは、今後減っていくだろう。画面を見るときと見ないときのバランスを考え直すことは、人とスマホの関係をより良いものにしてくれるだろう。
次に課題となるのは、そういうサービスを誰が用意するかという点だ。
公正な競争という意味では、スマホ本体やOSのメーカーだけでなく、ヘッドホンメーカーであったり、単独でAIを開発している企業であったりも参加できるようにする整備をすべきだろう。
NTTなどの通信会社も生成AI技術を開発中である。彼らがAIに注力しているのは、スマホOSを作っているアメリカのビッグテックへの対抗意識であったりもする。ここで存在感を示せると、スマホが絡む企業の認知度・戦略でより幅広いオプションが用意できることになるだろう。
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