Vol.142-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。
今月の注目アイテム
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
PlayStation 5
7万9980円~
PlayStation 5(PS5)が8万円弱に値上げされると、「高い」という反応を多く耳にした。中には“それならゲーミングPCを買う方がいいのでは”という声もあった。
たしかに、ゲーム機の価格が10万円近くなると「高い」と感じる人がいるのはわかる。10万円あればPCも購入できる価格ではあるし、“ゲームはもうPCにしようか”と考える人が出てくるのもわかる。
事実、家庭用ゲーム機にとってゲーミングPCは強力なライバルだ。現在のゲーム開発はPCで行われるので、家庭用ゲーム機向けとPC向けを同時に開発する例も増えている。特に構造がPCに近いPS5とXbox Series X/Sは、ゲーミングPCと比較されやすい宿命も背負っている。
では現実問題として、8万円でPS5と同じ体験ができるPCを入手できるだろうか? 正直なところ、これはかなり難しい。
自作PCでパーツの価格を積み上げるといけそうな気になってくるが、PCは汎用機でありゲーム機は「専用機」だ。ゲームにおけるフレームレートや画質を安定させる処理は、専用機である方が有利になる。画質をフルHDで妥協する、読み込み速度がPS5やXboxと同じにならなくても我慢する、ファンの音はそこまで小さくなくてもいい……といった妥協をすれば近い価格のPCでもゲームはできるが、“ゲームをする上でのコスパ”でいうと、基本的にはPCよりゲーム専用機の方が良好なのは間違いない。
11月にSIEは高性能版である「PlayStation 5 Pro」を販売する。こちらは約12万円で、スタンダードモデルより高い。それこそゲーミングPCでカバーしたいと思う人も出てきそうだが、12万円かけたとしても、PS5 Proと同等以上のパフォーマンスを得るのはやはり難しいだろう。
一方で、“画質などで妥協しても、1台のハードウエアで済ませたい”という人もいるはずだ。その場合、多少コストを積み増してPCにしたとしても、それはそれで満足感を得られるだろう。ゲーム機とPCの両方を買うなら片方のコストで……と考えると、選択肢も増えてくる。
逆に、現在得られる最高の画質でゲームをしたい、予算には糸目をつけない、ということであるならば、そこはゲーミングPCが有利な世界になってくる。40万円近いコストを投下し、定期的にパーツを入れ替えていくことで“常に最高に近い状況”を維持できるのはゲーミングPCの特徴だ。ゲームを趣味とするなら、そういうお金の使い方をしてもいい。
一方で、誰もが“PCとゲーム機を1つにしたい”わけではないだろう。仕事用にノートPCを……という人は、それでゲームをすることを求めていない場合も多い。だとすると、PCはノート型でゲームはゲーム機で……という判断をする人も当然いるはずだ。
市場は多様であり、“ゲームをしたい”人のニーズもやはり多様である。家庭用ゲーム機だけでなくPCでもニーズを満たせるようになったのは大きなことだが、かといって、すべてがPCだけで満たせるほどシンプルな話でもない、ということになる。
では、家庭用ゲーム機というビジネスは今後どうなると考えられるのだろうか? その点は次回のウェブ版で考察する。
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