実は今、TBSテレビの『水曜日のダウンタウン』や『クレイジージャーニー』、テレビ朝日の『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん(以下、博士ちゃん)』に『家事ヤロウ!!!』、日本テレビの『ヒルナンデス!』など、バラエティから情報番組、ドキュメンタリーまで、人気番組を多数手がけ、同業者からも一目置かれている人がいます。それが、知る人ぞ知る放送作家・飯塚大悟さんです。
飯塚さんが現在抱えているレギュラー番組はなんと16本! なぜ、そんなにも各所から声がかかり、かつヒットを生み出せるのか? その秘密を3回にわたって探ります。
台本執筆だけじゃない! ディレクターを支える縁の下の力持ち
飯塚さんの仕事術を知るためには、そもそも放送作家がどういう仕事なのかを知る必要があります。「台本を書く人」ぐらいのイメージしかない人も多いでしょう。そこで「放送作家とは何をしているのでしょうか?」とお聞きすると、飯塚さんは眉間に皺を寄せ「いやー、本当に説明が難しい仕事なんですよね……」とどこか困り顔。

「作家によっても、関わる番組によってもやることがまったく異なるので、“ここからここまでが作家の仕事”と線引きするのは難しいんですよ。『台本を書くだけ』というお仕事はほとんどなく、大抵の場合は企画会議から参加するし、どんなタレントを起用するか案を出すこともめちゃくちゃ多いです。場合によってはラ・テ欄(ラジオ・テレビ欄)やテロップの文言を考えることも。強いてひと言で表すならば、『ディレクターを支える便利屋』でしょうか」(放送作家・飯塚大悟さん、以下同)
飯塚さんいわく、テレビ制作の現場は大きく分けると、「制作側」と「出演側」に二分でき、ディレクターが「制作側」の代表。ディレクターさえいればVTRを作ることはできるため、本来であれば放送作家はいなくてもいい存在だ、と言い切ります。
「そんななか放送作家がいるのは、ディレクターさんがひとりでは思いつけないようなアイデアや客観的な意見が必要だから。彼らの相談相手となり、一緒に番組を作り上げるのが仕事だと思っています。漫画の編集者に例えるとわかりやすいかもしれません。出演者が“絵”、ディレクターが“漫画家”、そして放送作家は“編集者”。編集者さんって、実際に作品を描くわけではないけれど、客観的な視点で意見を出し、漫画家さんをサポートしますよね」
飯塚さんは、「水曜日のダウンタウン、面白いですよね」「先週の博士ちゃんよかったです!」など、携わる番組を褒められることも多いそうですが、「僕の手柄ではないので、毎回、リアクションに困ってしまって……」と謙遜します。
「編集者にとって漫画が自分の作品と言い切れないように、番組も僕の作品とは言いにくいです。台本だけとっても複数人の放送作家が関わっていることがほとんどですし、番組の面白さを僕が生み出しているなんて、滅相もない話です……!」
放送作家の“三種の神器”。日常を支える仕事道具たち
GetNavi webはモノ情報メディアということで、飯塚さんの仕事を日々支える“三種の神器”を見せていただきました。

「決して広くない家に住んでいるので、子ども3人が揃うとすごく騒がしいんです。そこでオンライン会議用に、マイクのノイズキャンセリング機能がしっかりしているヘッドセットを探していて見つけたのがこれ。最新モデルではないので同じ型はもう手に入らないのですが、子どもたちの声をばっちり遮断してくれていて、本当に助かっています」

「指先を動かすと脳が活性化する気がするので、アイデアが煮詰まったときや会議中などに手元でガンキューブを動かしています。頭の中では仕事のことを考えているので、色を揃えることはせず、ただただ動かすだけ。通常タイプよりも滑りが良い競技用のものを使っていて、触感が非常に気持ちいいんです」

「意外性も何もない答えで申し訳ないのですが、これがないと仕事にならないので。台本執筆はワードで、スケジュール管理はGoogleカレンダーといたって普通。あと、他社さんの出版物で恐縮ですが、『日経エンタテインメント!』が毎年7月号に掲載している『タレントパワーランキング』特集は、キャスティングを考えるときの必需品で、業界の人はみんなこれをチェックしています。以前は紙で持ち歩いていましたが、いまはKindle版を使っています」
芸能人と会うことは、実はほとんどない

放送作家に対し、「芸能人と一緒に番組を作る」という印象を持つ人も多いでしょう。しかし飯塚さんは、放送作家がタレントと直接やり取りをする機会はまったくないと言います。
「収録現場に立ち会うことが少ないので、何年も担当している番組なのに出演者の方と直接お会いしたことがない、といったケースは珍しくありません。たまにインタビューで、タレントさんとの面白エピソードを聞かれるんですが、『そもそもお会いしたことがないんです』と答えるしかなくて、ほんと毎回申し訳ないなぁと……。大学時代に落研に入っていて、コントをしたり、お笑いライブを企画したりしていたので、そのつながりで芸人さんの知り合いはいますが、タレントさんとの交流はあまりないですね」
連載が書籍化。注目は爆笑問題・太田光さんとの特別対談
ここまで飯塚さんの放送作家としての顔に迫ってきましたが、実は飯塚さんは、「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」をはじめ賞レースの審査員を務めるなど、「お笑い」関連でも活躍されていらっしゃいます。そしてこの6月には、ウェブメディア「お笑いナタリー」で連載中のウエストランドの井口浩之さんとのお笑い対談「今月のお笑い」をまとめた書籍が発売されました。

「自分たちでネタを作るわけでも、何かを発信するわけでもなく、ただただ毎月、お笑い界で起きたできごとを語るという、いわば“他人のふんどしで相撲を取るような連載”が本になりました。しかもなんと、書籍用に爆笑問題の太田光さんと特別対談をさせていただき、その様子も収録されています。今のテレビやお笑いについて、馬鹿なフリして聞いたら全部答えてくださったんです。さらに僕が最近吹聴している『太田さんはもっとブレイクしますよ』という非常に失礼なお話までさせていただけて。この対談だけでも読む価値があると思います!」
さらに書籍の発売に伴い、サイン会も開催予定(※)とのこと。とはいえ、放送作家という立場上、サインに対しては少し特別な思いがあるようで……。
※:6月25日に開催。本記事の取材は、サイン会開催前に行いました
「タレントではないので、あまり“調子に乗ってる感”を出すわけにもいかなくて(笑)。放送作家の大先輩達のサインを調べたところ、やはりみなさん裏方らしく、控えめで読みやすいんですよね。なのでいま、“ほどよく崩して、調子に乗っていない感じ”のサインを鋭意考案中です! といっても僕のサインはどうでもいいので、とにかくテレビやお笑いに興味のある方にはぜひ手に取っていただけたら嬉しいです」
