インディーズ作品ゆえ、公開時には単館上映だったのに、SNSなどで話題になりロングラン&ムーブオーバー(上映期間終了後、別の劇場で続映すること)、ついにブルーリボン賞&日本アカデミー賞の主演女優賞をW受賞までしてしまった「百円の恋」。主演女優賞に激しく納得! まさに安藤サクラの女優魂を観る映画だからです。
女子力ゼロ以下のダメっぷりから目が離せない
一子(安藤サクラ)は32歳の処女でニート。家業の弁当屋の手伝いもせず、やることといえば、ゲームと近所の100円コンビニへジャンクフードを買いに行くぐらいなので、身体はぶよぶよ。一応まだ適齢期だけど、伸びっぱなしのボサボサ髪とジャージ姿のせいで女子力はゼロどころかマイナス。当然ながら家族からも邪魔者扱いされていて……と、開始10分ですでに気分がどよーんとします。32歳っていったら、夏目三久やスカーレット・ヨハンソンと同い歳(ベッキーも)! 女性にはいちばん良いお年頃ではないですか(泣)。
うつろな目でテレビを見つつ、たるんだ腹をボリボリ……演技とは思えないしぐさにドン引きしてしまいますが、それはまんまと安藤サクラの術中にハマってしまっているということ。猫背でモソモソしゃべる一子、一張羅のワンピースで精一杯のおしゃれをしたつもりでも超絶ダサい(見事なスタイリング)一子、ボロアパートで途方に暮れる一子……いいところ皆無なのに、なぜか目が離せないのです。
無気力女子に訪れた初めての恋!? そこから怒涛の展開へ
そのうちに、子連れで出戻ってきた妹と大ゲンカして、一子はとうとう家を出るハメに。なんとかボロアパートに落ち着き、100円コンビニでバイトを始め、ぼんやりながらも独り立ちしかけたものの、そこがまたオーナーも店員も(店員OGまで)全員が負け犬というド底辺の世界。
唯一の楽しみは、アパートまでの帰り道にあるボクシングジムでトレーニングに励むちょっとイケメンなボクサー狩野(新井浩文)の様子を眺めること。惹かれているんだけど、どうしたらいいのかわからないまま日々をやりすごすだけ。この張りの無い人生……身に覚えがありすぎて 精神面にパンチをくらいっぱなしです。
ひょんなことから狩野がアパートに転がり込んできて、初めての恋に舞い上がっていろいろ尽くす一子ですが、またこいつがダメ男で、一子もボクシングも捨ててどこかに消えてしまいます。
うわー、どうする!? アンタを捨てて豆腐屋のおネエちゃんとこに行っちゃったよ! また引きこもりに戻っちゃうの? と、ハラハラしながら見守っていると、ここからなんとロッキーな展開に。一子がじっと見つめていたのは狩野の向こうにある、ボクシングそのものだったようなのです。
女優魂を見せる安藤サクラの見事な肉体改造は必見!
眺めていただけのボクシングジムの門をたたき、”何か”と戦うことを決めた一子は、ここからグングン変わっていきます。目つきや動作はもちろん、あのブヨブヨだったボディがみるみるうちに精悍なアスリートのそれに! たった10日の撮影期間で、見事な身体改造をやってのけた安藤サクラはまぎれもなく女デ・ニーロ! この、”物語る肉体”を見るだけでも十分な価値アリですよ。
32歳はプロボクサー資格取得の年齢制限ギリギリ。しかもほぼ素人。だけど敢えてテストマッチに挑戦する一子。おそらく生まれて初めて自ら「やりたい」と思ったことがこれだったんでしょう。リングで闘う姿に、1983年に放送された「月曜ロードショー」での荻昌弘先生による映画「ロッキー」の解説の際の名フレーズ、「人生、するかしないかという分かれ道で『する』を選んだ勇気ある人びとの物語」 が思い浮かんだのは私だけではないはず。
U-NEXTでは他にも、謎の宗教団体メンバー役で強烈な印象を残した「愛のむきだし」、演じたヒロインは“ブスでバカでわきが”な「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」、北朝鮮の帰国事業に引き裂かれた一家の悲しみを静かに描いた「かぞくのくに」といった、いろんな安藤サクラが見られる作品がラインナップされているので、ぜひチェックしてみてください。
「百円の恋」
●PPV作品:500円/2日間
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