ヤングなメンズ編集担当者から「渋谷系って詳しいですか?」と聞かれたので、今回は90年代の渋谷系ムーブメントを知らない人でも楽しめる「渋谷系プレイリスト」をご紹介します。正直、わりとシーンの近くにいた人間なので、自分が青臭かった時代の個人年表を振り返るようで、「渋谷系」と称される音楽とはなんとなく距離を置いていたのですが、せっかくお声掛けをいただいたので、当時ならではの「現場感」を基準に幅広くセレクトしてみました。
ですので、世間一般的に「これは違うでしょ?」ってな楽曲もあるかと思います。そもそも「渋谷系」なんて気分用語なので、人によって捉え方は様々です。思うにあの時代に、いかに現場に行って遊んでいたかどうかで、「渋谷系」のニュアンスが僕のように大きく変わってくるのだと思います。それこそ、今の新世代ヒップホップ、ラップシーンのアンダーグラウンドな現場と同じってことです。
そもそもの「渋谷系」なる音楽性は、海外の最先端の音楽シーンと同時代的にリンクしていたムーブメントだったように思います。90年代前半、新しい音楽との出会いを求めて、夜な夜なクラブに通っていた自分。主戦場は下北沢の「ZOO」(後にSLITSに改名)、吉祥寺の「HUSTLE」、渋谷の「DJ BAR INKSTICK」「CAVE」「ROOM」といった小箱から、西麻布の「YELLOW」などの中箱まで。
そこでは、当時のイギリスやアメリカで局地的に流行っていた、レア・グルーヴ、アシッド・ジャズ、ニュースクール、インディー・ダンスといった、最先端の音楽シーンに触発された東京の新しい才能が、タイムラグなく新たな解釈で自分たちの音楽を鳴らし始めていました。
初めて耳にする彼らの音楽はとにかく刺激的で、海外のクラブ・ミュージックと並列させても、なんら違和感のない本家以上に凝ったサウンドメイクに驚いたものでした。気づいたら、仲良くなった知り合いがCDデビューしていたり、音楽レーベルを立ち上げたり、いつの間にか渋谷クラブクアトロでステージに立っていたりと、インディペンデントな姿勢でカジュアルにJ-POPシーンを席巻していく様は、端から見ていて痛快でした。
そうそう、「渋谷系」のシーン拡大に大きく貢献した、イギリス資本(当時)の大型CD・レコードショップ「HMV渋谷」(1990年オープン)の名バイヤーであった、太田 浩さんの存在も忘れてはなりません。インディーズやメジャーの垣根なく、同じ売り場に商品を同居させ、かつアーティストが影響を受けたあらゆるジャンルの過去の洋楽(ムード音楽、映画音楽、ソフトロック、フレンチ、ボサ・ノヴァ、ブラジリアンなど)や邦楽の旧譜、そして新作も関連付けて商品展開。きちんと系統立てた文科系気質にあふれた商品構成は、いま振り返ると見事なものでした。
こうした過去の埋もれた音源を掘り起こすという、ジャンルや年代を超えたDJ的な聴き方や音源作りも、渋谷系周辺の大きな特徴であったかもしれません。これは「サバービア・スイート」「フリー・ソウル」という渋谷発のムーブメントを仕掛けた、編集者・選曲家の橋本 徹さんによる功績も非常に大きいはずです。
渋谷系とは何ぞや。東京・渋谷発信の音楽ジャンルであったことは間違いないと思いますが、もっと踏み込むと、自分的には「文科系よりの優秀なヘヴィーリスナーが自作自演」、「サンプリング」と「元ネタ」、そしていい意味で身内的な「コミューン」という要素があったような気がします。クラブでプレイしていた瀧見憲司さんは「クルーエル・レコーズ」を立ち上げ、現場に来ていたカヒミ・カリィさんやブリッジを輩出し、当事者でもある小山田圭吾さん主宰のレーベル「トラットリア」から、仲間でもあるカジヒデキさんやヴィーナス・ペーターの作品が発表されたのは自然な流れでもあります。そこに現場とは無縁の大手レーベルが、次第に触手を無駄に伸ばし始めた時点で、シーンが少しずつつまらなくなってきたように思うのです。
ということで、今回は渋谷系黎明期であろう1990年から個人的にピークだと感じた1995年までの音源を中心に選んでみました。中には1987年や1989年の音源もあったりしますが、ピチカート・ファイヴとフリッパーズ・ギターの作品であることと、渋谷系サウンドの象徴的な「A&M系サウンドのホーンアレンジ」を実践しているということでご理解を。あとは、おそらく「渋谷系」の文脈であまり語られることのない藤原ヒロシさん関連の「なごみ系」作品や、彼が手がけた初期UAさんなんかも夜遊びやHMV渋谷での展開といった「現場目線」であえて取り上げてみました。
ちなみに「あの曲が、あのバンドが、あの人のがないじゃん!」ってのも多々あります。前述した象徴的な当時のレーベル「クルーエル・レコーズ」や「トラットリア」関連の音源がSpotifyにほとんどアップされていないという事実。いつかアップされることを祈っています。それにしても、選んだ楽曲の多くが「ファイルレコード」のものが多いこと! あらためて素晴らしいレーベルだと再確認。
しつこいですが最後に。ザワケンこと小沢健二さんの楽曲がないのですが、渡辺満里奈さんに提供した「夜と日時計」なる名曲を最後にセレクトしてみました。東京スカパラダイスオーケストラのギムラさんが亡くなって、その追悼ライブが1995年6月に日比谷野外音楽堂であったのですが、そこで小沢さんがこの「夜と日時計」を愛を込めた弾き語りで歌って、皆で男泣きした記憶があります。そんな個人的にも思い出深い楽曲でラストを締めます。
ということで、かなり長くなりましたが、当時のクラブでの夜遊び、渋谷クラブクアトロなどのライブハウスでのライブ体験、渋谷HMVや宇田川町に乱立していたレコード屋さんでの口コミなどなど、あの時代の「現場感」を反映させた広義の「渋谷系プレイリスト」をぜひSpotify(スポティファイ)で楽しんでみてください。
※画面をタップすると曲が試聴できます
【プレイリスト収録曲】
Flippers Guitar
・Southbound Excursion/南へ急ごう
・Hello/いとこの来る日曜日
渡辺満里奈
・大好きなシャツ(1990旅行作戦)
・レイニー・カインド・オブ・ラブ
・バースデイ・ボーイ
スチャダラパー
・N.I.C.E. GUY(1991 NICE GUY’S REMIX)
・Little Bird Strut
・Get Up And Dance
・5th WHEEL 2 the COACH
・サマージャム’95
Tonepays
・苦悩の人
PIZZICATO FIVE
・眠そうな二人
・そして今でも
・おかしな恋人・その他の恋人
・惑星
・誘惑について
SILENT POETS
・Step Out
・Simply Flower’s Dub
・blessing
United Future Organization
・NEMURENAI insomnia
・I LOVE MY BABY my baby loves jazz
・LOUD MINORITY – radio mix
・Upa Neguinho
・UNITED FUTURE AIRLINES
MONDO GROSSO
・TREE,AIR,AND RAIN ON THE EARTH
・SOUFFLES H
COOL SPOON
・NO SMOKE
・ASSEMBLER
・ELEGANT GIRL’S THINKING
HIROSHI II HIROSHI
・BEAUTY & BEAST+BAGEL(DUB)
・H2O
・PULSE OF CALM(GUITAR)
SUBLIMINAL CALM
・かすかなしるし
・カントリー・リビング
・メルティング・グリーン
藤原ヒロシ
・Natural Born Dub
・Dawn
UA
・HOLIZON
・太陽を手に月は心の両手に
Cibo Matto
・Beef Jerky
Nelories
・Set Pure Ven
・HELL TOUPEE
カヒミ・カリィ
・En Melody
Flippers Guitar
・Coffeemilk Crazy
・Happy Like A Honeybee/ピクニックには早すぎる
・Goodbye, our Pastels Badges/さよならパステルズ・バッジ
・カメラ!カメラ!カメラ!(Guitar Pop Version)
・クールなスパイでぶっとばせ〜Cool Spy On A Hot Car〜(Live)
・GROOVE TUBE
・星の彼方へ – Blue Shinin’ Quick Star-
ORIGINAL LOVE
・DEEP FRENCH KISS
・GIANT LOVE
・WITHOUT YOU
・ミリオン・シークレッツ・オブ・ジャズ(UFOリミックス)
・SCANDAL(New Recording)
・月の裏で会いましょう
・Winter’s Tale〜冬物語〜(高野寛、田島貴男)
・サンシャインロマンス
・WALL FLOWER
・The Rover
・The Best Day of My Life
MICROPHONE PAGER
・Don’t Turn Off Your Light(INST)
高木 完
・恋のフォーミュラ(BRIXTON BASS MIX)
キミドリ
・自己嫌悪
スチャダラパーfeaturing小沢健二
・今夜はブギー・バック smooth rap
渡辺満里奈
・夜と日時計