2018年9月1日に全国で公開された映画「寝ても覚めても」。主演の東出昌大さんにとっては初となる、一人二役を演じる、という点でも注目されています。参った!と思う日々のお悩みを5分で解決するウェブメディア「参田家のおうち手帖」から、参田(まいた)ファミリーのお父さんが、この機会に東出さんを直撃しました。
「妻からはよく『お父さんって趣味がなさそうね』と言われる僕ですが、実は大の映画好きなんです。2012年に公開された『桐島、部活やめるってよ』を見て以来、東出昌大さんは、大好きな俳優のひとり! しかも、趣味がDIYと聞いたこともあり、親近感を抱いていて……。この『寝ても覚めても』は鮮烈にして衝撃的な作品でしたが、ミステリアスな自由人・麦(ばく)と誠実なサラリーマン・亮平のふたりを見事に演じ切った東出さんのお芝居は、まさに圧巻のひと言! どんな役作りをして現場に挑んだのか、気になるなぁ……。シネフィルの名にかけ、東出さんに早速、お話をうかがっていきます!」
俳優 / 東出昌大
1988年2月1日、埼玉県生まれ。2012年に「桐島、部活やめるってよ」(吉田大八監督)で俳優デビューを果たし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞、第67回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞などを受賞。以降、数々の映画やドラマに出演し、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」での好演からお茶の間でも人気を博す。一人二役の主演を務めた映画「寝ても覚めても」(9月1日公開)をはじめ、2018年には6本もの出演作が公開される。
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“宇宙人”と“好青年”の一人二役を務めた映画『寝ても覚めても』
お父さん「東出さんが主演を務めた『寝ても覚めても』。いやはや、すごい作品ですね。文学的でもあり、それでいてスリリングでもあり……」
東出さん「最初に台本を読んだとき、僕も文学的な印象を抱きました。『寝ても覚めても』は、恋愛を題材とした映画です。恋愛は誰もが経験することですから、多くのラブストーリーには、親しみやすさがありますよね。それが本作は、非常に文学的であり、良い意味での高尚さを感じさせてくれます。オファーをいただくことができ、とても光栄でしたね。役者冥利に尽きます」
お父さん「東出さんが持つ、役者としての凄みを感じさせてもらいました。しかも一人二役! 掴みどころのない不思議な青年“麦”と、包容力のある好青年“亮平”。2つのまったく違う人格を演じ分けるなんて、僕には想像もつきません……」
東出さん「それが『どのように演じ分けようか?』と思いを巡らせていたのは、本当に最初だけです。現場に入ってからは、その思いは一切なくなりました。メガホンを取った濱口監督は、とてもユニークな演出をされる方。濱口監督の演出メソッドに取り組むうちに、演じ分けは不要だと感じましたね」
お父さん「演出メソッドですか、なんだか難しそうだなぁ……。具体的には、どのようなことをされたのですか?」
東出さん「実際の撮影に入る前、どんな芝居の現場でも『本読み』というものがあります。共演者とともに、声に出して台本を読むのですが、濱口監督の現場では、ひとつのシーンに対し、この本読みを100回は繰り返しましたね」
お父さん「ひゃ、ひゃ、ひゃ、100回ですか! お芝居に縁のない僕からすると、途方もない作業に思えます……!」
東出さん「途方もないくらい、何度も本読みを繰り返すことで、東出昌大という人間に、麦であり、亮平の人格を叩き込むようなイメージでしょうか。ほかにも、そして本読みの後には、映画に組み込まれることのないシーンを演じる、ワークショップを行なったりしました。ワークショップ用のテキストをもとに、『この登場人物なら、こういう場面のときこうするだろう』と、自分の中で想像力を働かせて演じました」
お父さん「映画の撮影シーンには組み込まれないのに、なぜそういうことを?」
東出さん「これも本読みと同様、登場人物の人格を叩き込むためだと思います。例えば、ドライブシーンでは、好きな音楽の話題になり、麦がカーステレオからホーミーを流します。ホーミーというのは、モンゴルに伝わる特殊な歌唱法のことで、ホーミーが好きな人なんてなかなかいないと思うんです。『麦はほんとに変わっている』ということが、麦を演じる僕自身にも、他の共演者にも、より鮮明に麦という人物の人間性が伝わったのではないでしょうか」
お父さん「なるほど。やっぱり役者さんの世界って、奥深いなぁ……。ちなみに、麦と亮平、どちらが演じやすかったですか?」
東出さん「ふたりをそれぞれひと言で表現するなら、麦は宇宙人、亮平は好青年といった感じです。ただ、濱口監督から『東出さんは、麦のほうが演じやすいはずです』と言われたんです。そして実際に演じ始めてみると、確かに麦のほうが演じやすかったですね」
お父さん「変わった性格の麦のほうが演じやすいとは、意外です! 東出さんの言葉通り、麦って、まるで宇宙人。反対に亮平は、すごく常識人じゃないですか。僕からすると、麦の突飛な行動は真似できません……」
東出さん「そう、亮平は常識人ですよね。和を重んじて周囲に気を遣い、その根底には『人に好かれたい』という思いがあるはずです。つまり亮平は、相手との呼吸を感じながら、会話をする人。その点、麦は、周囲に無遠慮です。相手と呼吸を合わせる必要のない爬虫類的な奔放さが、演じやすさにつながったのかもしれません」
お父さん「なるほど! 周囲の人ありきで存在する亮平に対し、麦は、あくまで自分が主体。だからこそ、演じる上でも、やりやすかったわけですね!」
東出さん「ただ、何に対しても無遠慮な人って、その自由さが魅力的な反面、不気味にも映るようです。亮平を演じるときには、みんなで和気あいあいとおしゃべりしてから撮影に入るのに、麦のときには、誰も話し掛けてくれない(笑)」
お父さん「でも、スクリーンではその不気味さに、見事に引き込まれました(笑)」
お父さん「『寝ても覚めても』は、カンヌ国際映画祭にも出品されましたよね。カンヌなんて、素敵だなぁ……」
東出さん「僕自身、いわゆる“世界三大映画祭”を訪れるのは、初めての経験でした。ただ、カンヌの空気を楽しむこと以上に、脳裏にあったのは、次の作品に対する思いです。生意気に聞こえるかもしれませんが、これは僕だけじゃなく、多くの役者さんが考えることだと思います。レッドカーペットから見る光景が素晴らしかったからこそ、またカンヌを訪れることができる作品を作らなきゃいけない。濱口監督とも、プロデューサーさんとも、そういう話をしていましたね」
お父さん「なんだか、自分が情けなくなってきました……。僕だったら間違いなく、舞い上がってしまいます!」
東出さん「いえいえ、僕も舞い上がりましたよ。舞い上がったというか、『世界中のタキシードが、ここに集結しているんだな』と、妙な感慨にふけりました(笑)。カンヌを訪れる全員が、タキシードをビシッと着こなし、その規模感たるや、想像以上の大きさと豪華さでしたから」
お父さん「確かに“超”が付く高級タキシードが、集結していそうですね(笑)。そして、今後の作品についての意気込みも聞かせてもらえてうれしかったです。いちファンとしてこれからの活躍も楽しみにしていますね! この後は、ストイックな自分から解放される、趣味の時間について聞かせてください!」
【前半のまとめ】
映画「寝ても覚めても」で経験した、濱口監督特有の演出メソッドについても、正反対の人格を持つ麦と亮平の役柄についても、淡々とお話しする姿が印象的だった東出さん。しかし淡々とした表情から確かににじみ出ていたのが、作品に対して真摯に、そしてストイックに向き合う姿勢。同じひとりの男性として、尊敬するばかりです。
それにしても、こんなにストイックな東出さん。息抜きの時間はあるのだろうか……。後半では、気になっていた趣味のDIYについてグッと迫ろうと思います!