つまらない人間なので、仕事や食事をする際は、つい、使い慣れたチェーンの喫茶店に入ってしまう。誰に気兼ねもしなくていいし、味のわかっているものが出てくる(つまり、失敗することがない)。ただ、たまにはちょっと冒険してみたくなるときもあるものだ。一人暮らしを始めて半年。家から徒歩5分ほどのところにある、いつも横目で通り過ぎていた老舗らしい喫茶店に、最近ようやく足を踏み入れた。
昔、「同じ価値観の人間なんていないんだよ」と怒られたことがある。一回じゃない。ことあるごとに、同じようなことで色んなひとに怒られた。それは、私が恋人に対して「価値観が違うから別れよう」と言ったり、友人に対して「どうせ言っても変わらない」と黙り込んでしまったりするからで。「言わなきゃわからないでしょ」と言われるたびに、「じゃあ、わかったら何か変わるのかよ」と口をとがらせていた。
悟っているように見えて、逐一傷ついていたわけだから、どうしようもない子どもだったのだ。
司会の内村光良が、もっと評価されるべき芸人たちにスポットライトを当てるバラエティ番組、「内村てらす」。先日は、「メイプル超合金」と「馬鹿よ貴方は」の二組がゲストとして招かれ、お互いの漫才を“カバー”したり、謎の多い私生活が暴かれた。
一見芸風の違う二組のコンビも、売れない時代に同じ舞台に立ち続けた仲。どことなく似たような雰囲気を感じる。
お互いの印象を語り合う場面で、「馬鹿よ貴方は」の平井“ファラオ”光が「メイプル超合金」のカズレーザーを“ゲラ”だと称した。誰が何を言っても大笑いするという。そのときのカズレーザーの一言が印象的だった。
「俺、自分と違うこと考えているってだけでもう面白いんですよ」
なるほど。はちきれんばかりの笑顔(と肉体)でそう発言するカズレーザーを見て、そんな考え方のできる人がいるのかと驚いた。
以前の私は、「誰とも分かり合えない」から、「自分が変わる(もしくは逃げる)」しかない、という思考回路しかなかった。いまは多少改善されたといっても、いまだに相手に「共感できない」ことに寂しくなったりすることはある。
しかし、世の中には、わからない相手に対して「面白え」と思える人間が存在したのだ。
もしかすると、私は単に早計なだけだったのかもしれない。“他人の気持ち”などわからないことが当然で、むしろ未知な部分を面白がるメンタルこそが人を強くする。格好いいよ、カズレーザー。彼の圧倒的な陽のパワーは、多分そういうところに起因するのだ。
初めて入るお店はどうしても緊張してしまう。でも、満を持して入った喫茶店のカレーライスは、とんでもなく美味しかった。これまた美味しいアイスコーヒーとサラダ、デザートまでついて1000円ぽっきり。正直なところ、慣れていないせいで、いつものドトールほどの居心地のよさはない。しかし、なんだか新鮮で気分が高揚する。今日が特別な日になったような感覚だ。
たまには、おそるおそる、わからない場所に足を踏み入れてみるのも悪くない。まずいカレーライスが出てくる可能性だっていくらでもあるけど、喫茶店から出るとき、ちょっとだけ世界が生きやすくなった気がしたのだ。
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イラスト/マガポン