エンタメ
2016/6/12 17:00

こんな尾野真千子見たことない! 地上波ではマネできない描写に圧倒されるHuluオリジナルドラマ「フジコ」

真梨幸子のベストセラー小説「殺人鬼フジコの衝動」をベースに、凡庸な1人の女が、15人もの人間を殺害するに至る経過を生々しく描いた Huluオリジナルドラマ「フジコ」(第32回ATP賞テレビグランプリ 特別賞・非放送系コンテンツ部門受賞)。切断された手足や一面の血の海といった、地上波では曖昧にされてしまうであろう残酷描写がきちんとなされており、ドラマに重みを与えています。配信ならではの醍醐味ですね。

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(C)HJホールディングス/共同テレビジョン (C)真梨幸子/徳間書店

小学生から始まる15人にもおよぶ殺人の罪で二審で死刑判決を受けている上原藤子(尾野真千子)。遺体を容赦なくバラバラにする冷酷な手口や、「感情がない」と評されるサイコなパーソナリティーゆえ、関連本が何冊も出版されるなど「稀代の殺人鬼フジコ」として社会現象を巻き起こしていました。

 

逮捕から20年近く経ち、裁判もいよいよ最高裁へ。死刑が確定するかしないかという微妙な時期に、フジコの実娘の早希子から編集者・高峰美智子(谷村美月)の元に手記が届くところから物語は始まります。

 

早希子は、フジコの2人いた娘の長女で、妹ともども常に両親から虐待を受けていました。母親の逮捕後は、保護された女性の伝手で天水教という新興宗教の熱心な信者になり、魂の安住の場所を見つけたとされていましたが、手記が届く3日前に自ら死を選んだとのこと。

 

そして、もう1人残された娘こそが、手記を受け取った美智子でした。ジャーナリストとして、娘として、真実を知るために身分を隠し、拘置所のフジコの元に聴取に通います。取材をすすめていくうちにわかってくるのは、フジコたちを利用しているさらに大きな存在。そして、フジコは上告を棄却され死刑が確定します。

 

凄惨な体験が少女をシリアルキラーに変えた

母親から「美しくないから、ロクでもない人生を歩むに決まってる」とモラルハラスメントを受け続けたため、美醜に固執する面はあるものの、決して生まれつきのシリアルキラーではなかったフジコは、むしろ尊厳を根こそぎにされたせいで、他者から愛されることを渇望する弱い少女でした。ただ、10歳の時に一家惨殺事件に巻き込まれ、両親と妹は惨殺されたのに1人だけ生き残ってしまったことから全てが狂い始めます。

 

血みどろで虫の息の母親に「あなたの人生ろくなもんじゃない。だって、あなたは母親似だから」と呪いをかけられてしまうのです。この一家惨殺事件事件こそがフジコを殺人鬼たらしめた最大の原因だろうと、38年前の資料から再検証する美智子。実はこの事件がまだ続いていたことは後から知ることになるのですが……。

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(C)HJホールディングス/共同テレビジョン (C)真梨幸子/徳間書店

幼少時からの虐待のせいで人格障害(as if personality)になってしまったフジコと、やはりフジコに虐待され続けた早希子・美智子姉妹。母娘の血の因果を軸に、「幸せになるためにやった」15件もの殺人に至る経緯とそこに見え隠れする2人の女・下田茂子(真野響子)と小阪初代(浅田美代子)、早希子の手記に隠された真のメッセージ、そして新興宗教集団天水教と、内因と外因の両面からていねいに事件が読み解かれてゆくので、謎解き&プロファイリング物としても楽しめます。

 

「どれだけ殺したら、幸せになれるの?」

当初は愛憎やプライドを守るためなど、それなりの理由があったフジコの殺人ですが、最初の夫を殺したあたりから「ムカつくから」「金が欲しいから」という簡単な理由でサクサク殺すように。痕跡を消すために手際よく解体していくフジコに「プロだね〜」と感心してしまいそうになりちょっとヤバいです。終始血まみれの尾野真千子はとても魅力的。サイコというよりも、あまりに弱すぎて社会に潰されそうになった1人の女が、生きるために止むをえなく選んだ手段が殺人だったのかも……と思わせる存在感です。

 

終盤、美智子が娘であることを告白し、フジコと美智子の間に心が通ったような、ホッとした雰囲気にほんの一瞬なるのですが、ラストではそれを帳消しにするような絶望が静かに待っていました。

 

「ながら見」ができるよう、懇切丁寧に状況がセリフで説明され、多少見逃しても大丈夫な作りになっている地上波のテレビドラマと違って、この「フジコ」のラストはあまりにもさらりと恐ろしい結末が語られているので、お見逃しなく。

 

(C)HJホールディングス/共同テレビジョン   (C)真梨幸子/徳間書店

 

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【URL】
フジコ公式サイト http://drama-fujiko.com