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2019/8/20 21:30

英国で再確認した「日本のマンガ」の多様性ーー 感動に震えた大英博物館「マンガ展」現地レポ

大英博物館でマンガ展が開催されている。高度経済成長期と第二次ベビーブームを迎えた昭和40年代に、少年少女マンガ誌が次々と創刊されたこともあり、近年は国内で各雑誌のマンガ展がよく開催されている印象だ。

↑ムンク展と並び垂れ幕が大英博物館に設置されている

 

だが大英博物館のマンガ展は、国内では決して見ることのできないものだった。会場内の展示では、マンガの歴史やマンガの基本的な読み方といった、マンガに親しみのない人のための情報があることももちろんだが、なにより素晴らしかったのは、展示されている作品の縦横無尽さ。

 

少女マンガ、少年マンガの垣根も、出版社の垣根も越えたラインナップ。会場には「ドラゴンボール」から「ポーの一族」、同人作品まで、あらゆる作家の原画が展示されている。作家の展示会や、マンガ雑誌の展示会だと、それに興味のない人は足を運びにくい。けれどもこのマンガ展は、男性マンガが好きな人でも、女性マンガに触れる機会がある。新しい出会いを多く創り出してくれるだろう。

 

【マンガ展の様子を写真でチェック】※GetNavi web本サイトでのみ閲覧できます

 

筆者が子どもの頃は、よく「漫画を読むとバカになる」などと言われたものだ。学校でマンガを読むのは禁止だったし、マンガを読むときには、大人に見つからないようにと、どこか後ろめたい思いがあった。けれど、あの頃の大人達に言ってやりたい。

 

「お前達が馬鹿にして、子どもたちに読むことを禁止していたマンガは、200年以上の歴史を誇る大英博物館で展示されるような価値あるメディアなんだぞ!」と。

 

入口には、同時期に開催されていたムンク展とマンガ展の看板が並んでいた。入口ですでに胸が熱かった。世界のムンクと並ぶ芸術なのだ、マンガは! さらにマンガ展プロジェクト・キューレーターの内田ひろみさんに話を聞くと、開催前に行ったアンケートではマンガ展に対する期待が高く、館内で最も大きな展示室での開催になったというのだ。取り扱う作品数が違うこともあるが、ムンク展よりもキャパが広いのだ! マンガを見下している大人達よ、どうだ見たか!

 

展示は、とにかくマンガへの愛情が詰まっていた。鳥獣戯画に始まり、マンガが発展するルーツを説明し、マンガの読み方、貸本屋の古い写真、手塚治虫の登場と、博物館ならではの学術的な展示も多かった。これらは、日本美術を積極的に収集しているという大英博物館としてのプライドを感じた。「ちはやふる」の原画と一緒にかるたの展示があったことも博物館らしい。

 

↑マンガの発展を語るうえで欠かせない、手塚治虫の作品も数多くアーカイブ
↑赤塚不二夫「ウナギイヌの最後」の生原稿

 

映画が異例のヒットとなった「この世界の片隅に」を描いた、こうの史代による「ギガタウン 漫符図譜」のマンガの読み方のコーナーでは、見るからにマンガ好きの男性に、女性2人があれこれ質問していた。

「同じコマにいくつもフキダシがあったら、どこから先に読めばいいの?」

マンガを読み慣れていると意識もしないことが,初心者には疑問なのだと知った。マンガ通しか来場しないマンガ展ではあり得ない出会いだ。

↑英訳されたギガタウンを展示

 

ボーイズラブ(BL)の元祖的作品である「風と木の詩」と、BLエッセンスのある作品を男性誌で連載するという画期的な作品「きのう何食べた?」を並べて展示しているところなど、マンガファンならそのセンスに悶えたのではないか。「きのう何食べた?」に登場するジルベールは「風と木の詩」のメインキャラクターだ。あまりに耽美ゆえに多くのファンを獲得したジルベールは、今や格好のいじりネタなのだ。会場では「風と木の詩」のカラー原画が展示されているが、作者の竹宮惠子自身で行なっている「原画(ダッシュ)」という原画保存プロジェクトの一環で高精細に複製されたものだ。

 

また、マンガの過激な性的表現が問題になっていることも説明されていた。マンガを褒め称えるだけではなく、真摯に見つめる姿勢なのだ。日本のマンガ事情をよく理解した上で、作品を抜粋して展示しているのがよく分かった。

 

マンガの表現と言えば、「柳の木」(萩尾望都)もチャレンジングな作品だ。コマは1ページに上下2つだけ、ラストまでセリフはない。この作品は全ページ展示してあり、展示側の「どうだ! マンガ表現すごいだろう?」というドヤ顔が見えるようだった。

↑「柳の木」展示の一連

 

男性向け、女性向けでマンガのタッチが違うことは周知だが、一緒に並べられることで、その違いをより実感した。そしてなにより、どちらのマンガもそれぞれ美しい。マンガは、1枚の原稿がひとつの美術品のようにバランスよくデザインされており、かつ各コマを切り取っても美しい。大きく引き延ばして展示されても、その美しさが損なわれることがないのは、そのクオリティの高さの証明ではないのだろうか。

 

来場者は日本人が多く、各所で日本語を聞いたが、一方で、アニメやマンガのTシャツを着た外国人や、そうした文化に馴染みの薄い人たちもいた。マンガが、日本が誇る文化のひとつであることを知らしめる素晴らしい機会だったのではないか。

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