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2019/9/2 18:30

サニーデイ・サービス「奇跡の一夜」をお届け! 丸山晴茂さん在籍時、国内最後のワンマンDVDを観て蘇る丸山さんとの思い出

サニーデイ・サービス のライブDVD『Birth of a Kiss』が発売になる。2018年に急逝したドラマーの丸山晴茂さん在籍時の、国内最後のワンマン(2015年3月渋谷公会堂公演)を完全収録したライブDVDだ。

 

 

この映像はROSE RECORDSのオンライン・ショップのみで限定販売されたBOXセット『Birth of a Kiss』(2015)にパッケージされていたもので、熱心なファンはすでに観たものかもしれないが、これがほしい人みんなに届く、というのは嬉しい知らせ。丸山さんがいた最後の国内ワンマン。そう聞くだけで胸に込み上げるものがあるが、当の田中貴さんからは「まったり具合を楽しんでください(笑)」とメッセンジャーが送られてきた(笑)。

 

音楽評論家なら、「丸山さんの独特のドラムだけが生み出した奇跡的な瞬間のグルーヴがココに!」なんて書くのかもしれないけど、当事者にしてみたら「まったり具合」ってなもんで、聴く方である私も肩の力を抜いて、当時のベスト選曲ともいえる全27曲を口ずさみながら楽しませていただいた。ただ、まあ、奇跡のグルーヴなのかまったりなのかはわからないけど、この3人っきりの飾り気のないステージは、当たり前だけど、どんな編成よりも一番サニーデイらしい。いい悪いじゃないし、新井さんや高野さんのいるサニーデイのライブも大好きなんだけど、まあこちらも当たり前の気持ちとして、「この3人のはもう観られないのか」とは寂しく思う。

 

実はこの直前、私たちのチームは、田中さんとラーメン×音楽のムック「Ra:」を作りまくってた。ラーメン本とはいうものの、CD付き(曽我部さん田中さんはもちろん、くるり岸田さんやブラフマンさんなどが参加!)、ラーメン店主のグラビア付き、ラーメン評論家が行かない地方店情報たっぷり、そのほか新機軸満載というか新機軸しかない平成の最大の奇書だったわけだが、これがもう産みの苦しみが強烈で、出産直前にもう一回産道通って子宮に戻るような感じだった。

 

この本を、渋谷公会堂の本ライブで手売りした。丸山さんの国内ラストワンマン(もちろんその時点ではラストになるなんて思ってなかったわけだけど)は、実は私にとってはラーメン本の販売の思い出で満ちている。だから当然、ライブも現場で拝見している。サニーデイ研究会の高橋真之介さんと「一曲目当てクイズ」をやりつつ、「やっぱbaby blueじゃね?」といったら「それは守りすぎな予想だ」とかなんとか言いながら、ライブが始まったら「baby blue」のイントロのギターが流れて、二人で顔を見合わせたのを覚えている。曽我部さんの穏やかな歌声に続き、丸山さんがおなじみのフレーズが渋谷公会堂に響く。会場全体が、これから続くであろうたくさんの名曲への期待で膨れ上がるのを感じた。そして、その予感は当たり前のように現実になった。

 

実は私、このライブの後日、丸山さんに会っている。先述の「Ra:」の発売記念イベントライブを渋谷のタワーレコードで開催した際、丸山さんも来てくれて、演奏してくれたのだ。記憶が曖昧だが、このイベントについての打ち合わせでは、「田中さんと曽我部さんが二人で演奏してくれる」という取り決めだった記憶がある。だが、そのイベントの前に、サニーデイのリハをやっていて、田中さんが「連れてきたよ」と言って、丸山さんを紹介してくれたのだ。

 

丸山さんとは初対面だった僕は、自分のイベントでサニーデイ・サービスの3人がそろう喜びに震えながら、丸山さんに「ありがとうございます、来て下って!」と謝意を伝えた。丸山さんはチラと目を合わせ、「いや本当は早く帰りたくて。全然来たくなかったんですけど、無理矢理」とだけおっしゃって、椅子に腰掛けた。なんとも言えない空気が流れたそんなワンシーンをよく覚えている。そのイベントでは、「Ra:」に収録した「きみとラーメン」を始め、「週末」や「雨の土曜日」など、7,8曲を演奏してくださった。それが、2015年の4月11日。この渋谷公会堂の約2週間後の出来事だったのだ。今、振り返れば、あのタワーレコードはずいぶん貴重な1時間半だったのだなぁ。

 

本DVDを観ながら、そんなことを思い出した。タワレコの楽屋で、気まずい一瞬を過ごした身としては、センチメンタルな気分二割増し。「胸いっぱい」で本気の胸いっぱいになった。でも、まあ、当然ホームページなんかを見ると「丸山晴茂さん在籍時の国内最後のワンマン」なんて言葉がまず来るわけだけど、最近のファンだったら「丸山さん? 誰?」って人もいることでしょう。悲しいことだけど、それはそれ。まずは、名曲ずらり27曲をそのまま楽しめばいいんじゃないかと思う。極論、サニーデイ・サービスというバンドを知らない人だって絶対楽しめる、ワクワクしっぱなしのライブDVDなのだから。

 

ということで、何が言いたいのかよくわからない原稿だけど、とにもかくにも、サニーデイ・サービスがこれからもずっと続くといいなぁと思う。そんな風に思わせてくれるDVDだった。曽我部さんが下のように語るのがよくわかる、喜びに満ちた一夜のパッケージだ。

 

「この渋公ワンマンはギリギリまで出来るかどうかわからなかった。

でも、いろんな偶然が重なって、出来たとき、すごく嬉しかった。このうえなく。これがサニーデイだって思ったし、今も三人で音を出せてることに対する感謝と喜びがすごくあった。」

 

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サニーデイ・サービス 『Birth of a Kiss』
Release Date:2019.09.04 (Wed.)
Label:ROSE RECORDINGS

http://www.roserecordsshop.com/ca42/370/p-r42-s/

 

 

収録曲

1.baby blue
2. 恋におちたら
3. 花咲くころ
4. あじさい
5. 雨の土曜日
6. スロウライダー
7. 虹の午後に
8. おせんべい
9. アビーロードごっこ
10. 恋人の部屋
11. 夜のメロディ
12. シルバー・スター
13. NOW
14. 星を見たかい?
15. 24時のブルース
16. ふたつのハート
17. 成長するってこと
18. 胸いっぱい
19. 夢見るようなくちびるに
20. 青春狂走曲
21. いつもだれかに
22. 白い恋人
23. 旅の手帖
24. 若者たち
25. ここで逢いましょう
26. 東京
27. コーヒーと恋愛