エンタメ
2020/2/14 18:00

ヴィレヴァン下北沢店の店長に聞いた2020年にヒット確実のカルチャーたち10作品

あらゆるカルチャー、エンタメを先取りして商品展開する「ヴィレッジヴァンガード」。メディア関係者の中には、次に来るエンタメのヒット予測をヴィレッジヴァンガードの店頭で学ぶ……なんていう人もいるほどだそうです。そこで今回は2部構成にし、ヴィレッジヴァンガードのスタッフの方に、2020年にヒットするであろう、猛プッシュ中のエンタメをズバリご紹介いただきました。

 

前編の今回は【映画・文芸・写真】のヒット予測を、ヴィレッジヴァンガードの旗艦店でもある下北沢店の店長、長谷川 朗さんに話を聞きました。

【プロフィール】ヴィレッジヴァンガード下北沢店の店長・長谷川 朗さん。サブカルチャー全般に造詣がある方ですが、特にご自身が好きだという、【映画・文芸・写真】について話を聞きました

 

【映画】2020年は「谷」状態だが、映画ファン垂涎の作品も!

ーーまず、長谷川さんが個人的にもお好きだという映画ジャンルの近年の傾向と、ヒット予測をお聞かせください。

長谷川 朗さん(以下、長谷川) 実はヴィレッジヴァンガードとしては、映画にまつわるアイテムの販売は少なめなんですけど、僕個人的に好きなジャンルなので、ぜひ紹介させてください。

まず、2019年は、大作映画が目白押しでしたけど、マーベル関連の作品がいったん落ち着いた感じでした。他方、2021年には、メチャメチャ大作揃いになるという話もあるので、今年は、その「谷」にアタる年なんじゃないかと思っています。

また、NETFLIXとかAmazon Primeなどの配信系の作品も目立ってきているのも最近の傾向ですね。ただ、いい作品はいっぱいあるのですが、映画界はまだ保守的で、配信系を嫌う傾向もあります。そこも「谷」なんじゃないかと思います。

 

ーー内容の傾向はありますか?

長谷川 国籍や男女などの平等性を訴えるような作品が増えている気がします。

特に顕著なのが1月公開の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。すでに昨年、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞しており、先日もアカデミー賞を受賞しました。2020年筆頭の注目作品ですが、ストーリーは貧しい家族の物語です。

↑全国で大ヒット上映中の『パラサイト 半地下の家族』。(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 

次は、中国映画の『フェアウェル』。これは『パラサイト』が目立ちすぎているから、「アジア枠は一個でいいだろ」と思われているのか、2020年のアカデミー賞では無視されていたようですが、映画ファンの間での評価はすごく高い。日本では春から公開ですが、僕も楽しみにしています。

↑『フェアウェル』4月10日TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。(C)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 

さらに、戦争の悲惨さを愛とコメディをもって描いた『ジョジョ・ラビット』、そして、グレタ・ガーウィグという女優さんが監督の名作小説『若草物語』を新しい視点で描いた『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』もヒットすると思います。

↑全国で公開中の『ジョジョ・ラビット』。配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン、(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

 

↑ 3月より公開予定の『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』

 

【文芸】韓国女性文学と短歌がキテいる!

ーー続いて文芸のヒット予測をお聞かせください。

長谷川 まず、映画に関連するところで言うと、『デューン/砂の惑星』(フランク・ハーバート 著/酒井昭伸 訳)ですね。これは上・中・下刊が出ているのですが、初版の刊行自体は1960年代。特に1970年代の映画業界では、聖書的に扱われていたSF小説です。

 

過去に映画化されたことはあったのですが、いろいろ問題があって企画がなくなったり、実際映画化されても内容の濃さから話がチグハグになって終わった……ということがありました(苦笑)。しかし、改めて『ブレード・ランナー2049』を撮った監督が指揮を取り、2020年に映画化することが決まっています。やっと成功しそうだという期待もあり、店頭ではこの原作本が結構売れています。

↑2020年秋〜冬に公開予定の『デューン /砂の惑星』の原作。フランク・ハーバート 著/酒井昭伸 訳(早川書房)

 

続いて、韓国文学での注目作品は『となりのヨンヒさん』(チョン・ソヨン 著/吉川凪 訳)です。2019年くらいから韓国や中国の文学がすごく流行っていて、うちの店でも異例な売れ方をしています。特に女性文学が中心なのですが、やはりフェミニズムとか同性愛をモチーフにしたものが多く、つまり社会的弱者に視線を向けた作品への支持が厚いですね。この『となりのヨンヒさん』もフェミニズム、同性愛などをテーマとしながら、SFとして綴っている作品です。装丁のかわいさも込みで売れ始めている本です。

↑ 『となりのヨンヒさん』チョン・ソヨン 著/吉川凪 訳(集英社)

 

そして、『アーのようなカー』(寺井奈緒美)もさらに注目を浴びそうです。今、短歌がジワジワ若い方に広がっていることを感じているのですが、新鋭短歌で特に売れ始めているのが、この本です。日常のちょっとしたシーンを面白く、奥ゆかしく綴ったものです。今はインスタ、ツイッターとかでも短い言葉で、いかに面白く書くか……ということが活性化していると思うんです。そういう流れの中で、こういった短歌も注目され始めているのではないかと思います。

↑ 『アーのようなカー』寺井奈緒美(書肆侃侃房)

 

【写真】エロティックな写真集を好む女性が増えている!?

ーーそして、写真集でのヒット予測をお聞かせください

長谷川 すべて写真集を出されている方になるのですが、まずソノダノアさん。『ケンカじょうとういつでもそばに』という写真集が、お店ですごく売れています。内容は娘さんをずっと記録したもので、写真家・川島小鳥さんのフォロワーというか、川島さんの絶妙な感覚にも通ずる方ですね。ご本人は嫌がるかもしれませんが。

 

SNSの影響で、写真自体がみんなの中で身近になっていると思うんですけど、自分のパーソナルな部分、プライベートな部分をどんどん露出するっていうのは、本当に時代だと思います。それを他人が見ても楽しめるようにしてくれているのがソノダノアさんだと思います。

↑ 『ケンカじょうとういつでもそばに』ソノダノア(KADOKAWA)

 

続いて、相澤義和さん。『愛情観察』という写真集を出されているのですが、最初に100冊入荷したのですが、もう残り1冊しかないという。それくらいうちのお店では人気がある写真集です。内容はエロティックなんですけど、買って行かれる方は女性が多いんですよ。これは推測ですけど、男性が女性のどんなところにエロとか愛を感じられるか……というところが知られるという意味で、女性ファンが多いようです。

↑ 『愛情観察』相澤義和(百万年書房)

 

そして、最後が『鶴と亀 禄』。これは長野県に住む小林徹也(兄)さん、直博(弟)さんというご兄弟が制作していたフリーペーパー『鶴と亀』からできた写真集なのですが、地元のおじいちゃん、おばあちゃんばかりを撮ったものです。この写真集刊行に際して、地元以外にも撮りに行かれたようですが、いわゆる写真家という立場ではないフリーペーパーからの発信が面白いですよね。そしてお店でもやっぱり売れています。

↑ 『鶴と亀 禄』(オークラ出版)

 

SNS時代だからこそ、センスと行動力が問われる時代

ーー映画、文芸、写真といった分野に共通する、今らしい傾向はどんなことでしょうか。

長谷川 これは個人的なことですが、僕はスマホがなかった時代までは、電車に乗るにしてもなんか1冊本をカバンの中に入れていないと不安だったんです。しかし、今はカバンにスマホだけを入れているます。そのスマホにNETFLIXの作品なんかをダウンロードしておかないと不安に思うようになりました。正直、映画や文芸の分野は、楽しみ方の形態が大きく変わったように思います。

しかし、「だからスマホじゃなくちゃダメ」ということではなくて、例えば写真集や絵本などは、スマホでは感じられない世界がありますから、商品として成り立つんです。例えば豪華な作りの低部数の本でも、高い定価を付ければ成り立つし、実際お店では売れています。

今は特に、時代の流れを逆手にとる、うまく利用するものがヒットするように思います。あとはやっぱりセンスと行動力ですね。そういう作家さんが勝っているように思います。

前時代からは大きく変わった、エンターテインメントの発表の場やメディアですが、これに柔軟に対応し、なおかつ最大限活用したセンスあふれる作品がヒットに繋がっているようでした。後編の次回は【コミック・音楽】編をお届けします。お楽しみに!

 

撮影/我妻慶一

 

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